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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ガードマンロボット

 その場でただ立ち、やってくる人に笑顔を送ること。それが僕の仕事。

 そう、ただそれだけ。無心で。一定のトーンで。変なアレンジは不要だ。尤もしたところで、誰も僕に目は向けないけど。

 ……いや、時々馬鹿にするような目で見られはする。

 でもこれが僕の仕事……。


 あ!


 あの女の子、派手に転んだなあ。泣いて、大丈夫かな……っとすぐに店員さんが駆け寄った。さすが素早い動きだ。手におもちゃも持って。すごいなぁ、かっこいいなぁ。

 僕だって……いや、持ち場を動いちゃいけないから、どうもできないけど……。


「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」


「……足、大丈夫?」


 ……しまった。つい、声をかけてしまった。あの子は一瞬ビクッてしたあと、ちらりと僕を見た。

 マズいことを……いや、良かった。あの子はコクンと頷き、僕に手を振ってくれたのだ。

 僕も手を振り返す。でも小さくだ。もし見られたら……あ。


「余計な動きはしないでください。スムーズな退店と入店を阻害すれば全体の効率が悪くなります」


 はい、という僕の返事を聞く間すら持たず、店員さんは仕事に戻った。

 このファミレスだけじゃない。どこも大体そうだ。全て高性能のロボットが店員となり、店を回している。休みは不要。ミスもしない。人間の労働者が取って代わられるのは当然だ。

 それに対し、労働者たちは抗議活動を行った。

 しかし、血も涙もない大企業たちとそれと懇意にしている政治家たち相手に成果は上がらず、次第に抗議活動は混迷を深め、ついにはまるで悪魔の儀式のように血と命、涙を捧げた。

 近年、それがようやく実を結び、人間の雇用枠を必ず一つ設けるという法律が制定されたのだ。

 しかし、皿洗いも席案内もロボットに任せた方が回転率がいい。それどころか動線にいれば邪魔になってしまう。

 

 だから立っている。


 店の入り口、その端で僕は笑顔で客を迎え、また笑顔で客を送り出す。

 余計な事をすればすぐに仕事をクビになってしまう。代わりはいくらでもいるのだ。だから僕は涙をのみ、頭をボッーとさせ、何も考えず、薄っぺらなガードマンロボットのように表情を変えず、ただ笑顔で


 ただ



 立っている。

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