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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ナルコレプシー

 眠っちゃいけない……ときほど、寝たくなるのはなんでだろう……。

 現実と夢の狭間、そのシーソー。ああ、すごく気持ちいい……。

 そもそも、眠たくなるような講義をするくせに寝ると注意し、最悪の場合欠席扱いにするほうもどうなんだ。授業に参加していないだの、それは学びの姿勢じゃないだの、ああ、眠い眠い……。

 頑張れ、頑張れーって隣に座る友人の囁き声も眠気を誘う要素の一つなんだよなぁ……。

 と、いけない、いけない。こんな時は羊を数えるんだ。一匹……二匹……。

 いや違う、素数を数えるんだった。

 あれ? それは落ち着きたい時のだっけ?

 ああ、ねむ……




「……きろ……起きろ! おい! 起きろ!」


「ん、ああ、ん? あれ……?」


「馬鹿! 寝たら死ぬぞ!」


「ここは……寒、ゆ、雪山?」


「当たり前だろ! 朝まで一緒に耐えるんだ! いいな? お互いに見張り、眠ったら叩き起こすんだぞ……」


「ああ、うん……」


 これ、夢……か? いや、さっきの大学が夢? どっちが、ああわからない……寝惚けてる、頭がぼんやり……目を、でも……眠い。そうだ、どちらにせよ、起きないと……起きないと……




「おい……起きろ。おい!」


「痛! ごめ、え?」


「正気か貴様? 戦場のど真ん中で眠るとはな。ふん。まあ、図太い奴ほど生き残れるのかもな」


「え、戦場?」


「貴様。まだ寝惚けているようだな。もう一発、殴ってやろうか?」


「い、いえ、結構です」


「ふん、俺はあっち。貴様はあっちだ。いいか? 眠るなよ。死ぬぞ」


「は、はい……」


 怖い人だ。顔に大きな傷が……。あんなのに睨まれたら、たとえ上官、味方だと分かってても、うう、震えちまう……。

 と、震えると言えば、しかし妙な夢だった。雪山に遭難か。現実とリンクして……いや、待て。あっちが現実でこれが夢か?

 わからん。腹も減ってるし頭がボーっとする……。だが、だとしたら危ないぞ。早く目を覚まさなければ凍死してしまう。

 ……でも……やっぱり……なんか眠い……




「……おい、何をしてるんだ?」


「……え、あの」


「まさか、てめぇ、寝てやがったのか」


「いや、あの……」


「船の見張りを任せただろうが! 海に放り投げられてぇか!」


「ふ、船? あ、確かに揺れが……」


「てめぇ、やっぱり眠っていたな……。確かに新人にカニ漁は過酷だろう。

だがな、コネで乗せてもらった癖に居眠りし、それで取り分をもらえると思うなよ!

てめぇ、次眠りやがったらぶち殺して、魚の餌にしてやるからなぁ! わかったか! 魚のはらわた以下のド腐れ野郎がよぉ!」


「は、はい! すみません!」


 なんて怖い船長なんだ……。軍人以上に、でも、あれ? そうか……船上と戦場。

 はは、その繋がりで、まったく妙な夢を見ちまった。でも、早く起きないとな。現実では敵がすぐそこまで迫っているかもしれない。

 ん? こっちが現実か? いや、まさかな……。

 それにしても、疲れてるせいかな。だるいし、この眠気……夢なのに……なのに……




「ちょっと運転手さん危ないって!」

「え、あ!」


 そうだ、俺はタクシードライバーで……。


「おっーと! いい当たり! おや? 外野手、まさかの居眠りかー!」


 試合中のプロ野球選手で……。


「寒いからってストーブつけっぱなしで眠っちゃだめよ? 火事になるからね」


 深夜に受験勉強中の高校生で……。


「次のプレゼンは……おい、君!」


 会議中の会社員で……。


「機長……機長!」


 パイロットで……。


「眠っては駄目だ」

「眠るなよ!」

「寝るな!」

「眠っちゃダメ!」

「寝ると死ぬぞ」


 寝るな……眠るな……俺よ……眠っては……なぜ……? なぜ眠っちゃいけないんだ……それは……


『警告。警告。コールドスリープ装置に異常が発見されました。

速やかに対処してください。

警告。警告。コールドスリープ装置に異常が発見されました』


 ……ああ、そうだ。私は長期航行中の宇宙船の船長。

 睡眠時間を削り勉学に励み、働き、そして厳しい訓練に耐え、宇宙船に限らず飛行機の操縦、危機的トラブルなど、あらゆるシミュレーションで好成績を収めてきた。

 船員は交代でコールドスリープ装置に入り、年単位で眠る。

 コンピューターによるオートパイロットは信頼に置けるが最低一人が起きて番をし、問題が発生すればすぐに対処する。

 たとえ、その一人が急死したとしても時間が来れば自動で次の者が目を覚ますが……。

 コールドスリープ装置に異常? まさか……まずい、温度が低すぎる。このままでは……。誰か、起きている者は、いないのか……? そんなはずは、トラブルか、まさか引継ぎの手順を怠たり、次の者を……目覚めさせる前に……眠りについたのか……?

 ああ、眠い……眠る……な……ねむ……あれ……?

 さいごに……おきていたのって……わたしじゃなかったか……?

 ……いや……これも……ゆめ……?

 ああ……きっと……そうに……ちがいない…………

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