表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

573/705

現実は

「……なぜですか。なぜ彼女を採用しなかったんですか!」


 バン! と彼は上司のデスクに紙を叩きつけながら、そう言った。

 息を荒げ、顔を赤くし、今にも悔し涙を流しそうなそんな気迫に上司は戸惑いを見せる。


「何だね君、藪から棒に……」


「……だってそうでしょう! ここ数年の就職希望者の中でも一番の美人だったんですからね!

あれですか? 美人だから実は性格悪そうだとか苦労知らずで根性がなさそうとか思ったんですか!?

それ偏見ですよへんけぇぇん!

いいですか、僕はね、履歴書が届いたその日から彼女の事を調べ始めたんです!」


「いや、調べたって君ね」


「いいからぁ! 学業の方は実に成績優秀! スポーツ万能でテニスの全国大会に出場も!

友人も多く、気立てがいい! 人の悪口を言っているところなんか見たこともなく、休日は習い事の他に時々ボランティアまで!

かと言ってですよ!? 裕福なわけじゃなくアルバイトをし、稼いだお金を家に入れてるなんてことも!」


「いや、あのね」


「まだ終わりませんよ! 外を歩けば誰もが振り向き、男共に声をかけられるも穏やかなにあしらい、夜、遊び歩くことも無し!

酒は嗜む程度でジムに通いヨガ教室にパルクール!

自分を磨くことに余念がなく、体調管理は万全!

汗の匂いは爽やか! 臭みなし! 髪はキューティクル!

彼女は現代の聖人ですよ聖人! 今からでも彼女を採用すべきです! 彼女がいればなんだってできますよ!」


 彼はまるで踊り終えたバレエダンサーのように息を荒げ、虚空を見つめた。その瞳には幻想に散った彼女との日々が映っているのかもしれない。平穏で輝かしい未来を。そしてまだ取り戻せるとも。

 

「……いや、うちの探偵事務所。尾行による不倫調査がメインだから美人過ぎて外で声をかけられたり、印象に残ったら困るんだよ……」


「あー……」





「……嘘! 不採用通知!? ここも駄目なの!?

……はぁ、幼い頃からの夢。美人スパイを目指して頑張ってきたのに、スパイ組織は見つからないし、妥協した探偵事務所も駄目……。

フリーで活動しようと思い、お金になりそうな企業に就職もとい潜入したらしたで、男たちが終始見てくるし、女たちはあることないこと私の噂を流布して全然思うように動けない。私、向いてないのかしら……。

モデルや芸能事務所のスカウトは来るけど、そんなの……あら?

このメール、へぇ、立候補、私が政治家に?

うーん、でも志や愛国心もないし現実には無理よね……でも、政治家になれたらいっそこの国の機密情報を売って、そうよ、もっと国同士の対立を煽ってそれから……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ