見送り
とある駅のホームにて。停車中の電車の窓から顔を出し、鼻を擦る少年。
「いやー、しかし寂しくなるなぁ。……なぁ! なっ!」
「ん、ああ」
「そうだね」
「……ふぅ、でも、絶対会えなくなるわけじゃないからさ」
「ん、まぁ、そうだな」
「あー、うん」
「まあ、考えようによってはこんな田舎を飛び出して都会で楽しめるって、はははっまあ、引っ越し先も田舎なんだけどな! 田舎から田舎って! ははははっ!」
「ああ、じゃあ」
「うん、じゃあね」
「はっはっは! 引き留めてくれてもいいんだぞ!
まあ、されたところで親の仕事の都合じゃどうにもならないんだけどなぁ……。
はははっ、高校生のつらいところだな。所詮、まだガキってわけだ……」
「いや、引き留めると言うかお前」
「ね。止まってるじゃん」
「……まあな」
「まさか見送りに来て電車が止まるとは思わなかったな」
「なー、クラスの他のみんな帰っちゃったしな」
「そりゃそうだろう。今の話も、もう三度目だしな」
「まあ、早々に帰った奴もいるけどね。電車が止まったことも知らない奴いるんじゃない?」
「……俺のせいか? なぁ、俺が悪いのか?」
「え? いや……なあ」
「あ、まあ……」
「電車の不具合は仕方なくないか!? それをなんだ! ちらほら帰り出したかと思えばゾロゾロと! 結局、お前ら二人しか残らないって何だよ!」
「まー仕方ないんじゃない? みんな、前日に先生に言われて嫌々付き合ったんだし」
「うん、すごい熱血ぶりだったからね。涙流してたし」
「は、え、そ、そうだったの……? 自分の意思で、俺のために来てくれたわけじゃなく? ひょっとして俺、嫌われて……」
「いや、嫌われていると言うか」
「無味無臭」
「な、それはそれで嫌だな……すぐ忘れられそうじゃないか」
「いや、忘れると言うか」
「最初から知られてない。あいつ誰? って話してたし」
「嘘だろおい……皆勤賞だぞ俺。そもそも先生はどうしたんだ!」
「風邪ひいたとかで来てないよ」
「迷惑な話だよな。自分が集めといて来ないんだもん」
「迷惑ってお前……。お前ら二人は俺の親友だろ?」
「……」
「……」
「なんとか言えよ!」
「そもそも、お前も悪いよ」
「うん、早く見送られろよ」
「なんだよそれ……そんな言葉初めて聞いたよ」
「いや、さすがに三十分は無理だよ。俺らもよく待った方だよ」
「ほら、先頭車両は駅のホームから出てるんだから、そこに移ればいいじゃん」
「先っちょだけな! それでも窓から手を目一杯伸ばせば届く距離だぞ!
違うんだよ! 俺は感動的な別れ方がしたいんだよ!」
「そうは言っても、入りから無理だよ」
「無理やり来させられたようなものだからね」
「……いや、そもそもその話、本当か? お前らさぁ、俺に嫉妬してるんだろ?」
「は?」
「どういうこと?」
「ほら、この花束」
「ああ、最初らへんで西園さんが渡してたやつな」
「そう! クラス一の美女! 西園さんが俺にくれたんだよ、笑顔を添えてな!
どうしても外せない用事があるからってすぐ行っちゃったけど、そんな用事を控えつつ俺に花束をくぅぅ」
「いや、確かそれジャンケンで負けた人が渡すって」
「そう、誰も渡したがらないから。決まった時、西園さん一瞬、嫌な顔してたよ」
「もう西園さんの話はやめろ。過去の女だ」
「お前から振ったんだよこの話」
「なあ、もう行こうよ。俺、腹減ったよ」
「え、あ、おい行くな、おい!」
「ラーメンでいい? この前割引券貰ったから。あ、じゃあな元気で!」
「オッケーお疲れー」
「……女子のジャージ盗まれた事件あったろー!」
「え?」
「ああ、昔あったっけ」
「あれ、犯人、俺ー!」
「え? は? ちょ、ちょ、何で?」
「そんなの決まってるだろう。欲しかったからだよ」
「いや、何で今言ったの?」
「そうだよ、よりによって今? 黙ってればいいのに、懺悔?」
「いや、引き留めたくて、あ」
「あ、動いた」
「じゃ、じゃあな! お前ら元気でな! 親友たちよ! またな!」
「おー……ん?」
「あ、また止まったね」
「あ、バックした。戻ってくる?」
「一旦、乗客を降ろすんじゃない? さっきもドア開けなさいよって中で文句言ってるオバサンいたし」
「へー、まあ行こうか。いたたまれないだろうし」
「そうだね。ん?」
「――つもしたー! ――さつー! あとー!」
「まだなんか言ってるな」
「盗撮もした? 他にもまだあるみたい。うわぁ、今のマジ? あ、ちょうど警官が……どうする?」
「まあ、逮捕されるところなんて元同級生に見られたくないだろう。行こうか」
「そうだね。よーし、さよならー! さよならー!」
「ふふっ、俺もやろ。元気でな―! さよならー! ああ、結局良い別れっぽくなったなぁ」




