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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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570/705

没頭

 ここは戦場だ……。飛び交う銃弾に仲間は次々と倒れていった。

 障壁は我々を守ってくれるが、それは敵からしても同じこと。利用され、我々の領域は徐々に侵食されていった。

 司令官からの指示はただ一言。食い止めろ、それがお前たちの役目だ。

『はっはぁ! 見てみろよ! 多勢に無勢もいいとこだぜ!』と壁から顔を出した仲間の一人がたった今、眉間を撃たれた。


 わざわざ顔を出さずとも足音でわかる。その数。時間が経つほど波のようにうねりを増し、我々を蹂躙する。

 こちらにも増援はある……が、敵とは反対にその数は時が経つにつれ、減るばかり。

 おまけに痩せ細り、何をせずともされずとも勝手に倒れそうな連中ばかりが投入されてくる。かすり傷のくせに動けない、もう無駄だとのたまう。

 だが、俺は倒れない。抵抗し続ける。

 ここを通すわけには行かないその理由。来週、彼女と会う約束があるのだ。連中の欲のままにこれ以上、奪わせてはならない……。


「手榴弾だ!」


 その声に俺はハッと身を伏せた。

 轟音。焼けつくような熱さが俺を蝕み、仲間の臓物と糞便が宙を舞う。


「……クリア。目標まではすぐだ。一気に行くぞ」

「了解」

「了解」


 俺は連中の会話を聞き、これより先、未来の損害を想像しながらも立ち上がることはできなかった。

 指はまだ動く。足も無事だ。

 しかし……死んだふりを続ける俺は遠ざかる足音にホッとしてしまった。



「目標達成。一度撤収する」

「了解」

「了解」


 また連中の足音がする。返す波の如く、連中は引いていく。

 そして沸き上がる多幸感。脳全体が喜び、打ち震えているのだ。

 俺はまた生き残った。しかし、もう何度繰り返した。そしてあと何度繰り返す。


 ……ああ、また増援が来た。

 『まだ戦えますか』と俺に問うのは子供のような兵士。

 俺はもちろん、お前たちこそどうなんだ、と答えてやりたかったが、ただ口を開けただけで言葉は何も出やしなかった。

 俺を見るその目。憐れみと軽蔑。そうか、俺ももうやる気のない奴らの仲間入りをしたらしい。

 また銃声が聞こえた。連中の足音が迫る。

 はははっ、雄たけびを上げたって無駄だ新人。連中は強すぎる。抗えやしない。

 ……だが、もう一仕事……あ、この勢い、やっぱ無理――




「またこのキャラかよ! 爆死も爆死! クソガチャがよ!

ふーっ……あともう一回、あ、金は……あー、彼女と遊ぶ約束をまあ、風邪ってことで……いける。もう一回だ、あともう一回だけ……」

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