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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ぼくのキノコ

 7月23日。

 朝、左腕の手首辺りに小さなキノコが生えているのを発見した。

 今が夏休みで良かった。学校に行ったら、きっとみんなからフケツだの何だの馬鹿にされていたと思う。

 原因は何だろう? 昨日の夜ご飯にキノコは出てこなかった。

 セミの抜け殻を集めに公園に行ったからかな? 林の中にキノコがあったような、なかったような。そのせい? 触っちゃった?

 それかストレスってやつ?

 わからない。でも、ちょうど良かった。夏休みの自由研究はこのキノコの観察にしようと思う。セミの抜け殻は結局見つからなかったから。


 7月25日。

 キノコは順調に育っている。今は、あのキノコのお菓子より、ちょっと大きめくらい。

 お母さんやお父さんや生意気な妹に見つからないように隠すのがちょっと面倒。

 あとお風呂。石鹸がつかないようにしないといけないし、水もなるべく当てないようにしないといけない。

 日に当たるのもいけないかな? まあ、がんばってみよう。


 7月29日。

 キノコは私の親指ほどの太さになった。

 色は茎の部分は白く、傘の部分はやや青みがある茶。初めは肌の色に近かった。まだ変化する可能性あり。

 ふと思ったのだが、毒キノコの可能性があるのではないだろうか。

 だが体調に変化はない。恐らく問題ないだろう。

 引き続き警戒はするがしかし、このサイズ。家族から隠すのは大変である。

 なんて研究者風に書いてみました。へへへ。


 8月6日。

 ちょっと日が空いたけど、毎日メモしているから平気。

 と言ってもキノコが大きくなった以外に変化はなし!

 大きさは多分、マツタケぐらい。うちで食べたことないからわかんないけどね。

 両親から隠すのが本当に大変。手が痛いって言って、タオルを被せたりしてるけど、見ようとしてくるんだもん。妹なんか本当にしつこくて嫌になる。

 でも擦れるとなんかちょっと気持ちいい。

 今は家族と顔を合わせないように部屋の中に閉じこもっている。

 勉強しているって言ってるけど本当は擦っているんだ。


 8月10日。

 外を出歩かなきゃならないときは骨折した人みたいに白い布を巻いている。

 キノコは曲がっちゃうけどでもちょっとくらいなら大丈夫そう。

 それよりも気持ち良すぎてちょっと大変。

 大きさはペットボトルくらいかな?


 8月12日。

 ちょっとジメジメした日が続いたせいかキノコの成長がすごい。ぼくの腕の細さと長さと同じくらい。手首から腕が生えているようで変な感じ。

 根元を擦ると、嬉しそうに先っちょを振っている気がする。

 ぼくも嬉しい。

 家族には風邪を引いたって言っている。


 8月15日。

 妹のやろうが両親にチクった。アイツ、ぼくが寝てる間に勝手に部屋に入ってきてキノコを見たんだ。

 許せない。でもそれより大変なのは両親だ。部屋に入ってこようとするから机を動かしてドアを塞いでいる。

 キノコはもう、ぼくの体と同じくらいの大きさだ。

 夏休みが終わったら学校に持って行って、みんなに見てもらいたい。

 だから頑張らなきゃ。絶対守ってあげるからね。


 8月16日。

 お父さんがとうとう部屋に入ってきた。

 お父さんは、ぼくのキノコを見るとポカーンとしていた。

 でももぎ取ってやる! ってすごい勢いできたから、ぼくは一生懸命暴れた。

 するとキノコがばちーんってお父さんの顔に当たって一発KO。

 あはは。お母さんは悲鳴を上げてた。


 8月19日。

 しばらく誰も部屋に来なくて静かだった。

 あ、食べ物は大丈夫。キノコを少しかじったから。

 キノコは健康そのもの。この観察日記も順調だけど今日、話し声が聞こえた。

 警察……研究者……。それにすすり泣く声。

 きっと、ぼくを捕まえてカイボウする気なんだ。

 冗談じゃない。これは、ぼくのキノコだ。

 ぼくがここまで大きく育てたんだ。

 大人の男くらいあるんだ。


 8月24日。

 家出してから五日たった。この山ならきっと見つからない。

 キノコは水分があるから食べ物も飲み物もこれをかじれば平気。

 でも食べなくても、ぼくは元気。どうしてだろう。

 それにしても虫がすごい。特に蚊が……と思ったら来なくなった。

 キノコのおかげかな? 追い払ってくれた?

 かわいいやつめ。今日はいっぱい、こすってやろう。

 まあ毎日やってるけどね。こすってたら一日なんてあっという間さ。

 学校が始まる日だけは覚えておかないとね。

 キノコの大きさは遊園地の着ぐるみぐらい。だからあまりよく動けないや。


 8月26日。

 山狩りが始まったみたいだ。

 ぼくはキノコを引きずり、山のもっと奥へ入った。

 今のキノコのサイズは自動車を縦にしたくらい。

 だからもっと奥へ行かなきゃ。奥へ奥へ。隠れきれるくらいのヤブかどうくつに。

 重さは見た目ほどじゃないけどすごく大変。


 8月28日。(多分)

 ぼくの苦労も意味がなくなりそうだ。

 ぼくのキノコはこの自然の中だからだろうか、大きく成長しアパートくらいの大きさになった。もう動けない。

 時々、遠くの方で化物だ! キノコだ! って人の声がするから見つかっていることは間違いないはずだけど、近づいてこないのはなんでだろう? 蚊と同じかな?


 8月29日。

 昨日は夜もヘリコプターがうるさくて、あまり眠れなかった。

 キノコはすごく大きい。マンションくらいありそう。

 ぼくの左うでを押しつぶした時ぐらいから山と合体して山の養分を吸っているんじゃないかな。

 左うでがキノコに埋まっているから、ぼくは仰向けに寝ている。

 起きたら右手を伸ばし、キノコをこする。すっごく気持ちいい。ほら、キノコも喜んでいるんだ。


 8月30日。

 ぼくのもとにガスマスクをつけた人たちがやってきた。

 君を助ける。うでを切り落とすって話していた。

 そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ……って強く思ったら、みんなバタバタと倒れ始めた。

 服が溶けているみたい。肌もブクブクしている。

 でもぼくは平気だ。でもノートがボロボロになってきた。


 8月31日。

 今日もこすってあげる。うんうん、ぼくもうれしいよ。

 いっぱいこすると何だかどんどん気持ちよくなった。

 すごくて、もうこれ以上は無理って思ったらなんかスッキリして白いのがふり始めた。

 そういえば空が暗い。ゆき雲かな。もしかしてもう冬になっちゃった?

 うん、サムい気がする。ああ、学校どうしよ。ぼくのキノコをみんなにジマンしたかったのに。

 すごく大きいんだ。でも大きすぎて見えないや。みんなは見てくれたかなぁ。

 まあいいや、こすこすこすこす。ああ、きもちいい。

 もっともっとしたいけど、でも少し、ねむることにする。

 なんだかぼく、すごくつかれたんだ。

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