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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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武勇伝

 俺の上司には困ったものだ。普段はまともなのだが酒が入ると


「んー、やっぱり六人だったかなぁ。うん、六人の不良相手に素手でね。まあ、楽勝だったよ」


 このように嘘丸出しの武勇伝をのたまうのだ。それも居酒屋で、近くの席の人に絡むものだからまったく恥ずかしいったらありゃしない。でも……。


「あー、そうですよねぇ。六人何てチョロイチョロイ! まあ、僕は八人相手だったかなぁ。それに相手は武器も持ってたっけ」


 今夜は相手が悪かったといったところ。上司が絡んだ相手もまた嘘の武勇伝を語り始めたのだ。

 まさかの武勇伝返しに、上司もまた武勇伝で返す。そんなやり取りに笑いをこらえるのが大変だ。

 上司はもちろんのこと、その相手も格闘技等の経験がないのはその弛んだ体が証拠。お見通し。バレバレだね。


「あー、そういえば私、十人を相手にしたことあったなぁ。うん、そうそう丁度、指の数と同じだぁって思ったもんなぁ。あ、もちろん、武器持ち相手ね!」


「ほー、流石ですなぁ。そうそう、指の数と言えば僕は二十人相手に勝ったことあったなぁ。足の指も使って数えてやりましたよ」


「うんうん、中々やりますなぁ。まあ、私は七人のヤクザを相手にしたことありましたよ。

いやぁ流石、暴力のプロ。中々手強かったなぁ。えー、レートだと……そうだなぁ、不良二十一人分くらいになるんですかなぁ」


 いやいやいや、なんだそれ。『ヤクザ一人=不良三人』なのか? 相手もうんうん頷いてるけどそれでいいのかよ。


「そう! ヤクザ! まあ、ヤクザ退治は必須科目ですからなぁ。僕は十人だったかな?

拳銃持ってるのも二人ほどいたなぁ。あれにはワクワクさせられましたよ」


「ほー! 私のはマシンガン持ちでしたなぁ。その七人全員が。

これだと単純に戦力倍でプラス、全員マシンガンボーナスで、そうですねぇヤクザ二十人分になるのかぁ」


 アル・カポネかよ。どこの国でどの時代の話だ。それになんだその変な計算は。

 でも相手はツッコまないな。首振り人形みたいに、すごくうんうん頷いている。まあ、ツッコもうにも、これまでの自分の発言はどうなんだって話になるからな。


「マシンガンはかわすのが中々大変だったでしょう。

銃と言えば僕は軍人を相手にしたことあったなぁ。やはり戦いのプロですからね、手こずりましたよ」


「ほほぅ! 奇遇ですなぁ。私もこの前、軍人を倒しましたよ。そうですねぇ……因みにあなた何人相手でした?」


「ちょっと記憶がねぇ……まあ、十一人……かなぁ。するとヤクザ二十二人分かぁ」


「ははぁ、私は十二人でしたっけな」


「あ、今記憶がはっきりしてきました。十三人でした」


「うんうん、私もはっきりしてきました。十四人だったな」


「あ! そうか増援が来たから二十人だった」


「あー! あるあるですなぁ。私は増援入れて二十二人」


「そうそう、ヘリも落としたからボーナスポイント付与で計四十人分か」


「私は戦車を一台壊したから計五十人分かなぁ」


「ああ、戦車なら僕も壊しましたよ。三台ね」


「ぶふうっ!」


「おいおい! 急にどうしたんだ汚いなぁ。すみませんね、私の部下が」


 限界だった俺は思わずビールを噴き出してしまった。

 ホントにしょうもない二人だ。このまま放っておいたら宇宙人を相手にしたとか言い出すんじゃないだろうか。


「で、なんでしたかな? あなたが戦車三台で、えっとそうそう、私は地球侵略に来た宇宙人を相手にしたことがありましてねぇ」


 言うんかい。


「いやー、もうテクノロジーがすごくて、武器なんかも地球のとは桁違いに、となんだなんだよ、おいまだ話の途中で」


「はいはい課長、もう帰りましょう。この辺りは夜、危ないですしね。すみませーん! お勘定お願いします!」


「あははは、良い部下さんじゃありませんか。あ、こっちもお会計お願いします」


「そっちはいくらです?」


「えーっとですね因みにおたくは?」


「もういいですから」


 息が合うんだか合わないんだか。結局二人は肩を組んで店を出た。

 同族嫌悪かと思いきや意気投合? まあ、次は俺がいないところでやってほしいものだ……お?


「どうしたんですか二人とも。急に立ち止まって」


「いやぁ、ほら見てみろよあそこ」


「ん? ああ、喧嘩ですかね」


 上司の差す指の向こうで、二人の男が取っ組み合いをしていた。


「まったくやれやれですな……」


「ええ、課長さんの仰る通り。素人丸出し。見るに堪えませんね」


「しかし、それゆえに危ない。あのままヒートアップすれば倒れた相手の頭を蹴り上げたり踏みつけたり、死に至らしめてしまうかもしれない」


「うんうん、ここはひとつ、僕らが止めてやらないとね」


「いや、いやいやいや……お二人とも、君子危うきに近寄らずですよ! 遠目ですけど二人とも体格が良さそうですし、さ、早く駅に行きましょう!」


 マズい。この二人、さっきの話の流れで気が大きくなっている。

 勝てるはずがない。足元フラフラだし、怪我するのはこちら側だ。

 俺が空手をかじっていたとはいえ、あの若者二人と上司らの間に入るのは嫌だ。早く二人を連れて離れ――速! もう向かってる!


「ちょっと! 駄目ですって、やめましょうよ! あ、ほ、ほら! 最強のお二人じゃ、相手を怪我させちゃうでしょ!」


「……ふむ、確かにそうだな」


「ええ、うん。仰る通り。まあ、手加減できますけどね」


「ああ、確かに。片手でちょいちょいよね」


「僕も指二本で十分かな」


「ああ、確かに。指一本がちょうどいいかもしれませんね」


「はいはい! もう行きましょうって!」


「僕はむしろ触れる必要ないかな」


「ああ、気で十分ですな」


「はぁ、お二人とも……。『気で』ですかぁ……?」


「うん、気で」

「そう、気」


「……はぁ。もういい加減、馬鹿なこと言ってないで帰りますよ! さもないと――」


「波ぁ!」

「キエイ!」


「はいはい、え…………マジ?」

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