魂の服
軍服。それは国に認められた職人が手掛ける至高の一品。帝国軍人の魂の服。
その袖を通すことは栄誉であり、始まりでもある。これまでの自分を脱ぎ捨て覆い、人として男として一人前になるということ。
しかし、さすがにただ着ただけではその顔が凛々しく、雄々しくなることはない。
よって最終試験が行われるのだ。
銃殺刑である。
その銃口の先にあるのは非国民であり、人で非ず。軍服を着る資格のない大人というのは、髪は抜け落ち手足は細く、腹は出ていて、何と情けなく哀れで愚かで不幸なのだ。
早く楽にしてやるべきだ、と髭を蓄えた上官は言う。恐れも躊躇いも禁物。その一瞬が戦場では己の、仲間の死に直結する。
そう、これは始まりに過ぎない。帝国軍人として偉大なる指導者様に生涯、命を、心臓を捧ぐのだ。
母が拵えたツギハギの服。それは着心地が良いとは到底、言えない。
肌が擦れ、かゆい。縫い目がほつれている。
しかし、触れてみればその縫い目から込められた優しさや温もりを感じ取ることができる。
少年よ。君の目には私が何とも情けなく哀れな非国民に映っているだろう。
わかるとも。私は、私が銃を構えたあの日に見た大人そのものなのだから。
そう、私にはできなかった。涙で目の前が見えなくなったのだ。
私は上官から、仲間からなじられ、軍服を剥ぎ取られ、軍学校から追い出された。
しかし、私の心にあったのは安堵だった。
少年よ。君は真っすぐ私を見据えているな。
ああ、それでいいとも。だがどうか頭を狙ってくれ。
このボロボロで、丈の合っていない服には穴を開けないでくれ。
嘲笑、暴力を受けながらも必死に媚びへつらい、ここで着ることを許された私の魂の服なのだから。
ああ、私はもう、死を恐れない……。




