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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ミラーリング効果

 ミラーリング効果。相手の動作を真似することで、親近感を抱かせる心理テクニックだ。

 ……というのを最近知った男は、何の気なしに入ったこの喫茶店で実践することにした。

 相手は通路を挟んで斜め前の席に座る美女だ。彼の超好みのタイプである。

 彼女と同じアイスティーを注文。テーブルに運ばれて来たタイミングでスタート。


 ストローでそれを飲み、少しかき混ぜるっと。それから前髪に触り、耳を触る。

 ふふん、彼女はいつ気づくだろうか。気づかれ、微笑まれれば良し。逆に睨まれ、文句を言われても実は貴女に気があって……と話すきっかけになる。どちらに転んでもいい。と、したり顔の彼。

 ……と、お次は頬を掻いて、それから両手で頬をパン! と、顔をそのままグニグニ。マッサージだろうか? そして、目を見開いたり閉じたり、なるほど、顔の体操か。喫茶店だろうと関係ない。美意識の高さが窺える。彼は少しばかり羞恥心を抱きつつ後に続く。

 次に両耳を引っ張って、それから寄り目して……え、変顔。さすがにそれはやりすぎじゃ……え!

 と、彼は驚いた。

 なんと美女が鼻の穴をほじり始めたのだ。美人が台無し。しかし、ここまできてやめるのも……と、彼は後に続く。

 と、屈辱的な気持ちになった時、ハッと思った。

 まさか俺が真似していることに気づいているのか?

 しかし、それならそれで、わざわざからかってくるとは意外と好感触なのではないだろうか。

 参りましたという顔をして話しかけてみるか。そうとも、ほら、あの目! あれは恋を……いや、待て。彼女の視線の先は俺じゃなく……。


 通路を挟んで彼の席の隣に座る男。鼻をほじっている。つまり……彼女も真似していたというわけか。何てことだ。しかし、こんな鼻ほじり野郎に負けるとは……と彼が恨みがましい目で男を見ていると目が合った。お互い、鼻ほじりながらだから何とも気まずい。

 もう店を出よう。二度と来れないな……と彼が目を逸らそうとした時だった。

 男が変顔したまま、前! 前見て! というように指を差した。


 ――あ


 彼の正面の席。二歳くらいの子供。疲れているのだろうか眠っている母親の隣に座り背もたれから身を乗り出し、変顔をしている。

 あいつ、あの子の真似をしていたのか。どうりで……・あ。

 あの美女もどうやらそれに気づいたようで、彼らはお互い、顔を見合わせた。


 子供が母親のアイスティーをストローでかき混ぜる。

 カランカラカラという氷の音と笑い声が店内を満たした。

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