一堂
「嘆かわしい嘆かわしい。苦心の末に国を統一したというのに民を制御できていないとは」
「まったくですな始皇帝殿。こちらも自由をもたらしたつもりが格差が開くばかり……。なあ、竜馬殿」
「いやー、まったく乱世乱世ですなリンカーン殿。貴方はどうです? ソクラテス殿」
「……無知ばかりだ。馬鹿ばーっかり。おい、聞いているのか聖徳太子」
「え、ごめん、なんだって? あ、来た。みんな、静かに」
「ふふっ御機嫌ですね。何をされていたんですか?」
「いやぁ、この前自分がナポレオンだと思い込んでいる患者が来ただろ?
その気持ち、治療法を探るべく私も自分が世界の偉人であると思い込もうとしていたわけだよ」
「あー……なるほど。でももう夜中ですし、お休みになってくださいね、先生」
「うむ、ありがとう」
看護師はやれやれとばかりにため息をつき、ドアを閉めた。
そして小さく舌打ちをする。
今度は精神科医になった妄想か。自分がナポレオンだと思い込んでいる患者ってお前のことだろうが。この前、散々暴れやがって。まだ腕の痣が消えてないぞこっちはよ……。
精神病院の廊下に看護師の足音が寂しく響いた。
「……行ったようだな? で、どうだ一休よ」
「ばっちりです。鍵穴にガムを詰めておきましたから閉まってません! 奴さん気づかずに行っちまいましたぜ!」
「よし、ならば行こう。他の者も準備は良いようだ。
日に日に賛同者が増えるから大所帯になってしまったな。
我々はここから出て世を正さねばならない。
まったく貴方の思想は最高ですよ。ヒトラーさん」




