ぼくのサイボーグ
ぼくは映画を見るのが好きだ。
どうしてかと言うと、映画を見ている間はつらい現実を忘れられるからだ。
なんて聞いたら、きっと小学生が何を言ってるのなんて思うだろう。
でもつらいのは大人も子供も同じでしょ。
意地悪してくるクラスメイト。からかわれる毎日が楽しいとでも? それでも学校には行かなきゃいけない。立派な大人になるために。ぼくをイジめるアイツらと一緒に大人になって社会で同じように働くんだ。
あーやだやだ。ゆううつってやつだ……。
だから、ぼくは今日も学校に行く前にちょっとだけ映画を見る。お父さんのDVDを借りて、時間がないから早送りして良いシーンだけね。勇気を貰えるんだ。だってカッコいいもの。あーあ、彼が一日だけでいいから現実に、ぼくと一緒に居てくれたらなぁ……。
『ダダンダンダダン! ダダンダンダダン!』
え、このBGMって……。
――ガチャ!
「え、あ、あなたは……まさか」
「私はターミ――」
「う、うおおおお! え? 本物!? え? でもどうして」
突然、ぼくの部屋に入って来たこの男の人。間違いなく、あの映画そのままのサングラスにライダースジャケット、レザーパンツ、黒づくめの格好だ。そっくりさん? サプライズ? お父さんの知り合い? テレビ番組? それかぼくの願いが本当に……。
「あ、あの」
「君を守るために来た」
「うおおおお! まるで映画だ! え、じゃあぼくが主人公?
いやー、ちょっとそれはフフフッ。
ぼく、あんなにカッコイイ子じゃないしフフフフフッ……。
ぼくのボディーガードかフフフフ……。
と、あ! ごめん、もう行かないと学校遅れちゃうから!
もし良かったら部屋で待ってて! マンガ読んでていいから!」
「……って、言ったのになんで教室までついてきちゃったの?」
「私の任務は君を守ることだ」
「おおーフフフッ。まあ確かに普段、からかってくる奴らは近づいてこないけど……。
それどころか誰も近寄ってこないし、席だって離されちゃったよ」
「ノープロブレム」
「いやぁ、まあ、でも先生の言うことはちゃんときいてね? ぼく、怒られたくないし……あ、来た!」
「はいおはよう、朝のホームルームを、え! しゅ、しゅわ! シュワちゃん!? え! 本物!? いや、若いし、え!?」
「私はこの少年を守るために未来から来た。悪いがこの教室に居させてもらいたい」
「は、はははっ、いや、すごいなー! コスプレですか!? クオリティ高いですねー!」
「本物だ。金属の骨格を作ってその上を生きた細胞で覆っている」
「きゃああああああ!」
「うお!」
「うわああ!」
「わあああ!」
彼はそう言うと折り畳みナイフで皮膚を切って捲って見せた。その下には確かに金属が。
でもさすがにこれはやりすぎ……。ああ、先生があんぐり口を開けて目を見開いて、きっと警察とか呼ばれ――
「アッ、アッ、アッ、アッ、アッ……アッ…………すごいクオリティだぁ。貴方こそ真のシュワちゃんファンだぁ……」
「ここにいてもいいか?」
「ええ、是非!」
いいんだ……。まあ、たったの一日だけだしこの際、ぼくも楽しもうかな。
そして授業の時間。教室の後ろで仁王立ちする彼と、チラチラ後ろを振り返る興奮気味の先生。異様な光景だけど給食の時間の頃には、みんな慣れた。何せ力持ちだからね。重たい給食缶を運ぶのに頼りになった。
昼休み時間はいつも通り、校庭でドッチボール。普段はチーム決めの時、ぼくは最後まで選ばれないけど今日は別。彼と二人一組という事で、ぼくの取り合いになって良い気分!
当然、ぼくのチームが圧勝。意地悪してくるケンタくんなんて彼の投げた球が当たった瞬間「うごほうっ!」だってさ。ははは、背中を押さえて悶えてたよ。
学校が終わり、家に帰るとお母さんが待ち構えていた。どうやら学校から連絡がいっていたらしくカンカン。
何なの! どうなっているの! って喚くように訊いてきたけど、すぐに笑顔になった。
彼がサングラスを外したら、なんだかこっちが恥ずかしくなるくらい、きゃーきゃー言ってさ。そっくりー! テレビテレビ? だってさ。面倒だから、ぼくは頷いておいた。
夜になり、家に帰って来たお父さんも同様に大興奮。肩なんて組んで一緒の写真を撮って、明日会社の人に自慢するんだってさ。
それで、ご飯食べて一緒にゲームしてお風呂に入って、あっという間にもう寝る時間。
子供の時間って短くない? お父さんはぼくが寝た後、彼とお酒を飲むんだってさ。なんかずるい。
でも寝るまでは一緒。ぼくはベッドの上。彼は床の上に横たわっている。
「ねぇ、寝た?」
「私は睡眠を必要としない」
「だよね。はあー。今日は楽しかったなぁ……。みんなからいっぱい話しかけられてさ。
他のクラスや学年からもだよ? まあ、君目当てだけどさ」
「そうか」
「……なんだか寂しいな。ねぇ……また会えるかな?」
ぼくがそう言うと彼はベッドの上に手を乗せた。
そしてグッとこぶしを握り親指だけを立てた。
「I'll be back」
「そこは英語なんだ」
翌朝。起きたばかりのぼくはまだここが夢の中なんじゃないかと思った。
だって……。
「なんでまだいるの……?」
「君を守るのが任務だと言ったはずだ」
「え、でも、え? 未来からって……マジの話なの?」
「未来の君が私を作りそして送った。映画は相変わらず好きなようだ。だからこんな機能がある。こうして胸を叩くと」
『ダダンダンダダン! ダダンダンダダン!』
ぼくは何も言うことができなかった。
ただ外からする大勢の人の悲鳴と緊迫感のある音楽だけが、ぼくの耳の奥まで響いていた。




