翻訳機
「お母さん、お母さん……」
「……おはよう」
「ふふふっ、起こしてゴメンね。今日はプリン買って来たの。食べる?」
「食べる」
「……どう、おいしい?」
「おいしい」
「良かったぁ……あ、それでね、ほら携帯、見てこの画像、うちの子たち」
「可愛い」
「でしょー! ふふふっ」
「あははは」
「ママ、どこ行った?」
「病院。くたばりかけのババアのところだ」
「意味あるの? もう会話もできないんでしょ」
「何でも最近、老人翻訳機なるものができたらしい。脳波を読み取って機械が代わりに喋ってくれるんだとよ」
「へえ、便利な世の中ね」
「まあ、どこまでホントの事喋るんだか」
「ん、何? どういうこと?」
「どうせ機械が勝手に喋っているんだろう。クレーム言われないようにありがとうとか、喉渇いたとか当たり障りのない事をな。
まあどの道、弱った老人の頭なんて、そう複雑なこと考えていないだろうから変わりないだろうが」
「そうね……でもそのうち複雑な会話できるようになるかも」
「無理だろ。老人の脳みそだぞ」
「装置を使っているうちに脳のほうが活性化されてさ……あ、今の音、帰ってきた!」
「ただいまー! おりこうさんにしてたぁ?」
「おかえりなさい、ママ」
「おかえりなさい、ママ」
「あら、またスイッチいれたままだったのね。ふふっ、まあいっか!
でも充電しないといけないから外してっと。
はーい、リコちゃん起きてたんでちゅねーうー、かわいい、かわいい!
ミルクは? いる? ふふふ。
チョコくんには、はい! お土産にお気に入りのドッグフード買ってきたよぉ!
ああ、久々にお母さんと話せて良かったわぁ……」




