神にご挨拶
「あの」
「ん、え?」
「どうも初めまして」
「ああ、うん……うん?」
「はい?」
「いや、え?」
「ん、はい?」
「いや、なんで人間が、この神の宮殿にいるんだ?」
「あー、やはりそこからですか」
「そこから?」
「はい。実はかなり前から、この雲の上の宮殿の存在は知られていたんです」
「いや、待て待て。見つけたというのか? それは不可能だ。
この神の力によって人間の目には見えないように――」
「衛星です。人工衛星。それで見つけたんです」
「人工衛星……」
「ああ、失礼ながら神様。最後に人類に目を向けたのはいつ頃ですか?」
「あー、なんか空を飛ぼうと躍起になっているところだったかな。
ははははっ人間が空を飛ぶなど無理な事なのに」
「あー、やっぱりそれでか……」
「まあ、お前がここまで来れたということは空を飛べるようになったわけだ。
うむ、大したものだ。それで何だ? 頼み事か?」
「あー、いえ、ご挨拶に伺いに――」
「ほう! 挨拶とな! 感心感心。まず挨拶。そうとも。
神に頼ってばかりではいけないからな。
そもそもお前たち人間は願い過ぎなのだ。あれしてこれしてと嫌気がさすよまったく。
ああ、それで、神の宮殿を見つけ、慌てて会議した結果、お前が人類代表に決まったわけだ」
「いえ、慌てるも何もこの宮殿は随分前に見つけていました。先程もそう申し上げましたが」
「なに?」
「それで一先ず、監視ドローンで様子を見ようということになり、ええ、今もこのやり取りを多くの人間が見ています」
「え、ドローン? 監視? ずっと? これまで?」
「はい。神様の性格も何も知らない以上、もし下手にお会いして
お怒りを買ったりしては大変だと人類はそう判断したのです。
それでまず、人類一丸となって浮遊都市を造ろうという話になりました」
「……ん、なぜ?」
「もし神様が器量が狭いお方で、こちらのちょっとした粗相ですぐ不機嫌になり
癇癪の後に地震でも起こされたら大変だと、我々人類はそう考えたのです。
そして、次に雨雲を破壊するためのミサイルの開発に勤しみました」
「破壊……それは、なぜ?」
「神様がみみっちいお方で、地震が駄目なら雨雲を呼び
浮遊都市を沈めてやろうと考えるのではと、人類はそう考えたのです。そして次に」
「まだあるのか」
「はい。もし神様がどうしようもなく最低な奴で、それなら火山を噴火させてやると
考えた場合を踏まえて、我々人類は地球から火星への移住を決断しました」
「え、いないのか? いや、火星なんてあんな失敗作に住めるわけが……」
「はい、知らなかったでしょうね。ええ、知ってます。
寝てばかりで地上を見向きもしなかったのはわかっていますから」
「ま、まあ全知全能と言っても知ろうとしなければ、わからないものはわからんからな」
「はい。それでもし神様がねちっこく陰湿で滅茶苦茶性格の悪い野郎で――」
「おい! その辺にしておけ! さっきから聞いておけばこの……何だこれは」
「立体映像です。触ろうとしても私の実体はここにありませんよ。
もうすでに全人類、火星へ移住しておりますので。
緑地化も済み、汚れた地球よりもかなり快適です。
ああ、人類だけではありません。動植物に虫、できる限りの種を運びましたから。まさにノアの箱舟ですね」
「ああー、ははは。あの大洪水は痛快だったなぁ」
「そういうわけで、これまで私たちの祈りも願いも無視した神様とはお別れです。
サンキュー神様。ファッキュー神様。もう会うことはないでしょう」
「貴様……消えた。成程、映像か。……ふふっ馬鹿どもめ。この神の言葉を聞き逃したな?
火星は失敗作。そう、あれは地球を作る前の失敗作だったのだ。
つまり火星から地球へ来たように、神は地球から火星にも行けるわけだ。神の威厳、とくと見せ――」
その日。火星に住む全人類は空を見上げた。
神よ、貴方が作った人類は不完全極まりなく争いと苦しみが絶えない生き物です。しかし、本日をもって人類は国も人も手を取り合い、争いを辞めることを誓います。
全ては貴方のお陰。貴方のだらけにだらけた姿に怒りを覚えた人類が一丸となって発展に尽力したお陰です。
私たちを不完全に生んでくれてありがとう。
不完全ゆえに私たちはここにたどり着くまでに地球を汚し、そして大量の破壊兵器を生みだしてしまいました。
さよなら地球。
さよなら神様。
貴方に贈ります。
ああ、美しい花火をありがとう……。




