マサキヨくんが浮いた!
とある中学校の教室。教師がいる上に授業中だというのにガヤガヤと騒がしい。しかしそれも仕方がない。むしろ当然。と、言うのも今、修学旅行の班決めを行っているのだ。おまけに教師は机に片肘ついて眠っているようだ。
「なーどうするよ?」
「つってもなぁ男子四人女子四人、これは決まりだもんな」
「俺たち三人組は決まりで、あと一人残り物からだろ」
「それなぁ……マサキヨかぁ」
「あいつ、浮いてるし女子からキモがられてるからな」
「部屋も同じだろ? せっかくの修学旅行だしなぁ。夜更かししたいし、こっそり女子を呼んだり、もしくは行ったり」
「あー、でも仕方ないかぁ。他の奴は早々に取られたしな。
しかし、いつも何考えてるかわかんないし、ホント浮いて……浮いてる!」
「そんな大声出さなくてもわかってるって。アイツがクラスで浮いているのは」
「ちがちがちがう! 浮いてる! 見てみろ! おい! マサキヨ! お前浮いてるぞ!」
「え……ぼく?」
「え、嘘」
「マジだ! みんな! マサキヨが! うおおぉぉ!」
「浮いて……えええ!」
「空中浮遊!?」
「きゃあ!」
「どうやっているの!?」
「マジかよ!」
「すげえ!」
「なんでだ!?」
「え、あ、ぼく、わかんない」
「おおお! また浮いた! 何食った? 芋か!? 芋だろう!?」
「いや、腸内ガスって言っても無理だろう。ほら、何かに噛まれてスーパーパワーを得たとか」
「そんなまさか……元々宇宙人だったとか? だからクラスで浮いてたんだよ!」
「いやいや、元々って話なら宇宙人より超能力者のほうがリアリティが」
「そもそも本当に浮いているの? 手品とか」
「あ、う、西森さん、そ、そんな触られると……」
「うーん、仕掛けはなさそうね」
「チッ。で、マサキヨ。どうなんだ? コントロールできるのか? 降りたり浮いたり、空飛んだりさ」
「う、うーん、できない、かな?」
「引っ張っても……駄目だ、床につかないな」
「でも引っ張れば風船みたいに移動はできそうね」
「ぼ、ぼく、どうなっちゃうんだろ……」
「そりゃあ、マスコミとかテレビとか大騒ぎで……」
「奇跡とか神とか……」
「教祖になったりして……・」
「それはそれで怖いな」
「ぼ、ぼく、そんな気は」
「周りがそうするって話だよ。きっとこの教室の比じゃないくらい大騒ぎになると思うぞ」
「い、嫌だなぁ……」
「の、割には浮いたままだな」
「謎だ……」
「なんでもいいや、俺らの班に入るよな!?」
「え、いいの……?」
「ああ、紐を結んで引っ張ってこうぜ。へへへ、向こうでも話題になるぞぉ」
「うん、ありがとう……」
「いや、待て」
「うん? お? 戻った?」
「おお! 床についた……よな?」
「……あ、うん。ぼく、元に戻ったみたい」
「ほー……じゃあ、やっぱり俺らの班以外に、だな」
「え、な、なんで?」
「だって浮いてないとなぁ」
「え、ああ」
「うん。確かに」
「そ、そんな、あ、あああぁぁぁ!」
「うおお! 思った通り、また浮いた! しかもすごい勢いで!」
「よっしゃ! これで俺ら有名人になれるかもな!」
「他にないもんな! 空中浮遊する中学生がいるクラスなんてさ!」
「もっと浮かせらんねぇかな! おい変わり者ー! へんじーん!」
「うふふふっ天井にビターン! ってふふふっ」
「ちょっと、笑っちゃふふふっ駄目よふふっ」
「あはははは!」
「はははは!」
「んーっ! ふっー! ああっー!」
「はははっすげえ顔……あれ? なんか外……」
「……え、学校、浮いてね?」
シャボン玉飛んだ。
屋根まで飛んだ。
屋根まで飛んで。
こわれて消えた……。




