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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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予言者

 ある日、地球に一隻の宇宙船が降り立った。

いや、不時着したと言った方が正しいだろう。

肉眼で見える距離になるとより顕著に、ふらつきと煙が出ているのが確認できた。

 街の中に不時着したため、宇宙船の周りにすぐに人が集まってきた。

 それは野次馬から始まり、警察、消防、マスコミに政治家や軍事関係者

研究者、さらに他国の外交官など続々と。

 しかし、何が起こるかは誰にもわからない。その目的は一体何なのか。

友好、あるいは侵略の使者……しかし、あの様だ。

単純に爆発で終わりという事も有り得る。貴重な宇宙船も木っ端微塵に。

謎は謎のまま。それだけは避けたいものだ。

消火剤をかけつつ、宇宙人が出てくるのを待つ。


 ……が中々出てこない。もしや中で死んでいるのでは?

ザワつく一同「出てこいよー!」など野次が飛び、よせ、無礼だろとそれを制す中

ようやく宇宙人は現れた。

 しかし、あの黄緑色の液体は血だろうか。

もしや怪我を、いや、何にせよ衰弱していることは一目瞭然。

早く手当を……というところで宇宙人が喋った。


「ジ、ジンルイはメツボウすル!」


 そして宇宙人はバタリと倒れ、そのまま息絶えたのだった。

 静まり返る現場。が、それは嵐の前の静けさ。すぐに悲鳴が伝播した。

 一部始終を映していたカメラ、その向こうのテレビの前の視聴者もヒステリックな反応を示した。

何せあの宇宙船。地球より遥かに優れた文明の宇宙人の言う事だ。きっと正しいのだろう。

 人類滅亡。その言葉がいつまでも重く圧し掛かり、パニックは治まらない。

マスコミが、霊能者が占い師が宗教家が阿保が煽りに煽る。

ほら見た事か! 言っただろう! 死ぬ死ぬみんな死ぬ! と大笑いに嘲笑い。

 

 世界各国の政府は落ち着くようにと国民を宥め

また暴徒を鎮圧すると、あの予言について検討を始めた。

 一体、どうやって人類は滅亡するというのか。

 まず考えられるのは隕石の衝突。

巨大隕石の接近をあの宇宙人は伝えに来てくれたのだろう。

 しかし、それなら『地球が滅亡する』と言うのではないか?

言っていたのは『人類は滅亡する』という事。

地球が砕け散るような大きさの隕石ではないという事だろうか。

それともそれを含めての話なのか。

 勿論、あの喋り方。不慣れな言語のはずだ。言葉の間違い。

こちら側の解釈の問題。気になるが一先ず置いておいて他の可能性……。

 大地震。

 ウイルス。

 太陽フレア。

 どれもしっくりこない。

そして気になるのは、なぜあの宇宙人が死にかけていたかだ。

 それになぜ、命がけで人類の危機を伝えに来てくれたのか。

 議論の末にある結論が出た。


 彼のいた星が攻めて来るのでは。

 

 つまり、彼は軍部に相当する機関に所属しながらも

争いを好まない平和主義者。聖人。

狂った軍部によって計画された地球侵略作戦に勇気をもって反対を表明

それゆえに袋叩きにあった。

 そして、それを伝えるためにどうにか宇宙船に乗り込むも、被弾。

撃ち落されまいと必死に逃げ、そして地球に……という経緯だ。


 いずれにせよ、たった一人で地球の危機を伝えに来てくれた勇敢なる宇宙人。

彼を褒め称え、立派な葬儀が行われた。

 そしてその技術。宇宙船や翻訳装置などの仕組みは各国で共同研究され

対宇宙船用の兵器開発が着々と進んだ。

 ロケットで打ち上げられ、衛星同様、地球の周りに配備されたのだ。

 それだけではない。対宇宙船用ミサイルやあらゆる宇宙人の兵器に対応するべく

各国の軍備は強化された。

 今はいがみ合っている時ではない。いつ宇宙人が侵略に来るかはわからないが

警告からそう長い時間があるわけではないだろう。


 人類は待ち構えた。

 待った。

 待った。

 待った……

 待った……

 



 ……待った。



 そしてある日。ついに事件が起こった。

遠い宇宙を監視するために打ち上げられたはずの衛星が

地上を監視していたことが分かったのだ。

 高い金を投じて開発したのだ。

テロリスト予備軍や独裁者の動向を監視しないでどうする。

と、いうのが告発された国の高官の言い分だ。

 当然反発を受けた。

しかし、遺憾の意を表明した国々も対宇宙人用の兵器を他国へ向けていたりとボロが出始めた。

 

 そのうち、何を思ったのかとある国のトップが隣国に戦争を仕掛けた。

その言い分は『宇宙人との戦争のために国を大きくする必要がある』

各国が攻められた方に支援すれば、その支援した国家と敵対していた国が

攻めている方に支援する。

 次第に戦火は広がり、地球の至る所で戦争が起きた。


 人々は灰色の空を見上げ、宇宙人が攻めてくることを

人類が協力し合うことを願った。


 ただ一人の予言者。

 あるいは狂人の言った事を信じて……

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