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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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無情な鳥

 戦場を高速飛行する四機の戦闘機。

空を裂き、大地を揺らすその様に敵は恐怖し、それらを『悪魔の翼』と名付けた。

 そのうちの一機、特に恐れられていたものは『蒼炎』と呼ばれていた。

由来はジェットエンジンからなる炎の色である。

 闇夜に映える青き炎はまるで、はしゃぐ子供のように自由自在に舞う。

しかし、無情に命を、魂を貪るその様は畏怖そのもの。

 反対に、味方からそのパイロットは英雄と褒め称えられていた。


 今宵も戦場を血で染める。肉片をぶちまけ黒煙が闇夜を更に黒く塗る。

 だが、どれだけ敵を屠っても滾る血は抑えられない。

すでに戦場が彼の家。彼の生活。やめられない。

 ターゲットを捉え、照準を合わせる。

彼の脳細胞が更なる死を求め、血液を沸騰させる。

彼の、英雄の鮮やかかつ、煌めく指先は脳から送られてくる電気信号に従い

蒼炎もまたそれに準じ――


「あ、やべ」


 操縦室にアラームが鳴り響いた。


「撃墜! 二号機撃墜だってよ! フォオオオオウ!」

「あーマジ? はははっざまぁ」

「うはっ、蒼炎やばばばっ。あれ? どこいった?」


 勢いよく操縦室から飛び出したのは蒼炎のパイロット。

鼻息荒く腹を揺らし、血走った眼で廊下をドタドタと走るも、すぐに取り押さえられた。


「い、嫌だ! はなせ! はなせええぇぇぁぁ!」


「観念しろ。撃墜されたんだろ? ほら、大人しく来い。

なに、一機あたり数億円だが怒られはしない。それにすぐ済むさ」


「やめろ、俺は知ってるんだ! 前に見た! やめろ!」


「手間をかけさせるな。まったく、どうやってヘルメットを外したんだ」


「いやだ、いやだああああああぁぁぁぁ!」


 駄々をこねる子供のように身をよじり、足をバタつかせる英雄。

弛んだ尻が床を跳ねる。涙と鼻水で顔を、その無精髭まで濡らす。

その黄色い歯をのぞかせる口から出る臭い息と断末魔が廊下に、基地内に響き渡る。


 無人戦闘機。それはたとえ敵でも命がけで戦う兵士たちに対し

余りに卑怯、非人道的、不公平、悪魔だと罵られた。

ひいては化学兵器や生物兵器同様、禁止にすべきではと国内からも意見が挙がった。

 平和ボケどもの馬鹿げた意見だ。

だが、増していく人権団体の勢力に手をこまねいているわけにも行かず、軍はある提案をした。

 

 撃墜されたパイロットは潔く死ぬと。


 撃墜が感知され次第、ヘルメット内部に仕込まれた針が飛び出し、パイロットの脊髄に注射。

その薬物により眠るように死に、すぐに軍関係者が遺体を運び出すという手順。

 これはまだ試験的という事で、ごく一部の関係者にしか知られていない。

いずれ知られることがあるとすれば、国際社会からの本格的な批判があった時だろう。

 尤もその時は、毒を注射しているとは言わず、シンクロ。

技術的な問題で命の危険があると無念そうに言うのだろうが。

 だが、そうなるのも恐らく大分、先の話。

 今なお操縦室でスナック菓子と炭酸飲料を貪るパイロットたちにも

撃墜のショックから気絶することがあるという偽りの情報しか与えていない。


 それゆえ、パイロット志願者はすぐにまた見つかる。




「お、なんだこれ? 俺宛てだけど……。

すげえ、高時給に家まで出迎え。それにこれゲームじゃん! うはほっ!」


 主に無職、実家暮らしの三十歳以上の男に送られるその書状は

真っ青な封筒に入れられ、幸せの青い鳥のように

その一家に幸運をもたらすと密かに話題になっている。

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