魔法使いの恋
むかし、むかし、とある国に魔法使いがいました。
その魔法使いは大変な魔力を持ち、大抵の望みを叶えることができましたが
ただ一つ、上手くいかないことがありました。
それは恋でした。
魔法使いはとある男性に恋をしていたのですが
近づくだけで顔が真っ赤に。魔法をかけるどころか、お話しすることさえできません。
ため息ばかりの毎日。そんなある時、魔法使いはある貧しい女の子を見つけました。
魔法使いと同じように、ため息をつき時々涙ぐむ子。
膝をつき、床の汚れと共にこぼした涙を
くたびれた雑巾で拭いています。
――この子、私に似てるかもしれない。
窓の外からその子を見下ろし、そう思った魔法使いはあることを思いつきました。
――この子に魔法をかけてあげよう。
一日にも満たない、たった一晩だけ。
その子を煌びやかな世界に送り出そうと決めました。
魔法使いに声を掛けられた女の子は半信半疑でしたが
魔法使いが呪文を唱えると、女の子は綺麗なドレスを着た
目も眩むような美しい女性に変身し大喜び!
そして、彼女は馬車で送られた先で豪華な食事や素敵な男性とダンスを楽しみました。
「ありがとう、魔法使いさん。おかげですっごく楽しかったわ!
人生で……人生で一番の夜ね」
無事、帰って来た女の子はどこか寂し気でした。
また、あの生活に逆戻り。それもきっとずっと……。そう思ってしまったのです。
ですが魔法使いはにっこり笑って、こう言いました。
「大丈夫。この馬車にお乗り。遠くの国に貴女のお家を用意したの。
生活に必要な物もすべて、ああ、服もたくさんあるわ。それに親切な人ばかりの街よ」
それを聞いた女の子は飛び上がって喜びました。
魔法使いにハグすると馬車に乗り、いつまでもいつまでも手を振り続けるのでした。
翌日の事です。街にお城からの使いの者が現れました。
「このガラスの靴に足が入る者はいないかー!?」
はぁい! と町娘に変装した魔法使いは、声高らかに返事をしましたとさ。




