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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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本編

 とある町に、とある青年がいた。

俯きながら歩くその姿は不幸そのものを体現しているよう。

それもそのはず。その青年の容姿はあまり良くなかった。

 いいや『あまり良くなかった』など生ぬるい。悪い。悪いのだ。

そしてそれこそが彼の悩み、生まれた時から根底にあるものだ。

 幼き頃は気にしなかった。

しかし、古いアパートの湿った畳から生えたキノコが日に日に伸びるように

成長するにつれ、彼はふつふつと自分が他の人間よりも醜いと気づき始めたのだ。

 だがさらに不幸なのは、それに気づいたのは彼だけではないということ……。

他の人間。そしてそれは砂時計の砂が落ち始めたことを意味する。

 ブサイクな彼はひどく、ひどく苛められ益々、自分の容姿に自信が持てなくなった。

人の目をより気にするようになり、怯え

すれ違う人さえも自分を嘲笑っているかのように感じていた。


 逆風にさらされた人生。ボロボロになった彼の砂時計の砂を無慈悲に吹き飛ばし

もう残りはあとわずかといったところ。

 青年はこの足で無意識に死に場所を求めていた。

 だが今、風向きが変わる。


「ちょっと、お待ちよそこのお兄さん」


 そう声をかけたのは怪しい見た目の老婆。露天商のようだ。青年は足を止めた。




 ……ちょっと待って欲しい。一時中断だ。

 

 私は美青年だ。


 なぜ今、このような注釈めいたことを言うのかといえば、ふと思ったのだ。

『これって友達の話なんだけど』『実は友達が悩んでいて』

という類の話の切り出し方があるだろう。

その実、自分の話であり面と向かって相談するのが気恥ずかしくて使う手だ。


 そう、つまり私がこのブサイクな青年に自己投影し、話をしているのではないかと

読み手に勘違いをさせてしまっているのではないかと懸念したのだ。

『とある町に、とある青年がいた』なんて。

 ……ああ、誤解していないのならいい。そうとも別によくある話の切り口だ。

何とも思っていない、そう、それならいい。


 では青年が足を止めたとこらから再開だ。




「な、なんですか……?」


 青年はオドオドと……




 ……いや、やっぱりもう少しだけ私の話をしよう。

 私は子供の頃から女子に人気があった。

スポーツ万能で成績優秀。バレンタインのチョコなんか、いい指標となるのではないだろうか?

ただ、残念ながら貰った数は忘れた。うっかりだ。まあ、いちいち覚えていられない。

クラスで一番だったかな。いや、学年、学校で一番だっただろう。たくさん貰ったのだ。

 しかし、それで男子たちの嫉妬を買う事もなく、私はそうだ、男女ともに人気があったのだ。

そう、あまりに人気だったので学級委員長に推薦され、色々なすごい仕事をして褒められた。

修学旅行の際も班分けもクラスも無視して私と一緒に居たがる者が多くて困ったものだ。

 この青年と私との違いが分かっていただけただろうか。

 そもそも、私は胸を張り背筋を伸ばして歩く。俯くと背が低く見られるだろう。

 まあ、私は彼と違って高身長だから仮に俯いて歩いたところで別に何が変わるものでもないが。

自分より身長の高い者を見てもコンプレックスや恐怖を抱くこともない。背の高い女性だって好きさ。

 そして何といっても肌。まったく綺麗すぎて触らせてなんてよく言われる。

彼は違うがな。幼き頃に水疱瘡にかかったせいでその痕が今も消えずに残っている。

 鼻は大きく低く赤く、毛穴が詰まり、イチゴ鼻。おまけに鼻の穴はデカイ。

顎の下には常にニキビがあり、そばかすは当然の事。

目は開いているのかわからないほど細い。

当然一重だ。歯並びは悪く、それほど太ってはいないくせに顔に肉がついている。

 私はまさにその真逆だ。容姿端麗とはまさに私を表す言葉。


 それから例え話の、古いアパートの湿った畳からキノコ云々の件だが

当然、私は雨漏りする部屋になど住んでいない。雨の翌日、部屋が臭いこともないし

寝ころんだ時にたまに畳のささくれが指と爪の間に入って痛い思いをすることもない。

 夜寝るとき部屋の電気を消し、スマートフォンの画面を眺めていると

虫がその光源目掛けて飛んでくることもない。

 私はタワーマンションに住んでいる。階数は高い。とても高い。

悩みなどないし苛められもしなかった。人生順風満帆。言うことなしだ。


 この後、青年は老婆からほとんど無理矢理買わされた商品で

自分の容姿を変え、美しくなるわけだが

私が自己投影し、救済しようとしているわけではないことを、ちゃんと知っていて欲しい。

まあ、そう思われたところで別に何という事はないのだけれど。

なぜならば事実ではないのだから。真実の鏡が映す私はとても美男子であり

アニメのイケメンキャラが現実世界に現れたようでモテにモテて

と、まあ、わかってもらえたのならいい。

 では、本編に……



 やはりもう少し私の話を……

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