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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ゆめうつつ

「はぁぁぁ」


「うおっ、デカい溜息」


「そりゃそうだろ。どれだけ働いても一向に暮らしが良くならないんだからさ。はぁぁぁぁ……」


「俺はこうして酒が飲めればいいけどね。

それも部屋飲みじゃなくて、こんないい感じの隠れ家みたいなバーでさ」


「でも結婚だってしたいしなぁ。はぁぁぁ。これも社会が悪い! 国が悪い!」


「おいおい」


「宥めなくていい! 政府が! 政治家が無能なのがいけないんだ!」


「はははっじゃあ、デモとかやってみるか?」


「おー! いいね! やったろう! 国会のみゃえでな! んにゃるぞぉ!」


「はははっ呂律が回ってないじゃないか」


「んふぅ! 俺が! くにぃをぉ! 変えるぅ!」


「はははっ! いいぞー! ほら、かんぱーい! はっはっはっは!」


「かんぱーい! やるぞ俺は!」




 目が覚めた。……いや、迷いが去った、正しいことを見出したとかそういう意味じゃない。

 ここは……ベッドの上。今のは夢……か。

 だがバーには行ったし、今みたいな会話をした気がする。

昨夜の記憶と夢が混じり合ったようで妙な気分だ。

 それにしても、どうやって帰って来たのだろう。

それくらいのことを覚えていないとは、週一の楽しみとは言え、ほどほどにしないとな……。

 さ、起きてまた会社だ。これが俺の現実だ……。




「おいっす」


「ああ、おう」


「さっそく、この前の話だけど」


「うん?」


「ほら、先週の夜、このバーで話したあれさ。結構人数集まってるぞ」


「先週? ……ああ、もしかしてデモの事?」


「そうそう。国会議事堂の前でな。それで――」


「ああいや、えっと、その話だけどほら、はははっ酒の席のアレと言うか酔ってたしさ。

まあ、そもそもデモなんてしたところで何も変わらないんじゃないか?

聞く耳持っていないだろ政治家連中は。どうしようもない奴らだよホント」


「うーん……ま、確かにそうだな!」


「お、はははっ! だろ! さ、どうにもならないことは考えず、飲もう飲もう! かんぱーい!」




 目覚め……またあのバーの夢か。

この前と同じ、どうやって帰って来たのか覚えていない。

どうやらまた飲みすぎたようだ。

ストレス解消とは言え、ほどほどにしないともうすぐ三十なんだ。気を付けないとな……。

さ、起きて身支度を……いや、でもまあ、夢、だよな……。




「おっす」


「……ああ、よう」


「で、この前の話なんだけど」


「えっ。この前のって……」


「すごいぞ、口コミで人数がまた増えたし

考えに賛同して、一緒にやるって気合の入った連中もいるんだ!

ほら、あそこの席の連中さ! 手を振れよ! 喜ぶぞぉ」


「あ、あれ、一緒に? 気合? え、まさかデモをか?」


「いや、ほらこの前話したろ? お前言ったじゃないか。

『デモぐらいじゃダメだ』って。『だから国会の前で俺が焼身自殺してやる!』ってさ」


「え!? お、俺が? え?」


「あ。そうそう、灯油は人数分バッチリ揃えるから任せておけ」


「い、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ……あーほら、一緒にやるってさ

そ、そんな良い奴らの命を散らすなんてそう、もったいないじゃないか。

だめだめだめだ。えっと、むしろ生きてこそ国の、未来の力になるんじゃないか……?」


「……あー、確かにそうだな。さすがだな。それじゃお前一人で――」


「いやいやいや! 俺一人でやったってこんな政府は変わらないって!

さあ、この話はやめにして飲もう! そう、酒だ酒!」




 目が覚めた……また夢か。

それにしても、どこまでが本当だったのか、まったく覚えていない。

 だが話を逸らすために酒を飲みまくった気がする。

 うあ、うぅ、気分が悪い……頭が……二日酔いの薬が欲しいな。

 今日が休日とは言え、飲みすぎだ……。

そもそも俺はなんでまたあのバーに行ったんだ……もう行かないようにしよう。

あれがどこまで夢の中の話だとしても……。




「よっ」


「え、お、おう……」


「今からか? この前の話なんだけどさ。まあ、いつもの店でするか」


「え、いや、俺は普通に帰るというか、もうデモの話は……」


「ああ、そうだ。ちょっとあの車を見てくれよ。ほら、あの窓を」


「え? 車? あの黒いやつか? 何が……ん、誰かいる?」


「ああ、そうだ。あの顔、見覚えないか?

ほら、不倫してるってスキャンダルが出たあの政治家さ」


「そ、それがなんであんなバンの中に? それに猿轡されてたような……」


「ははは! そりゃそうさ! 縛らないと逃げられちまうじゃないか!」


「え、え、で、でも彼をどうする気なんだ?」


「どうって先週一緒に決めただろ? アイツを燃やすんだよ。国会議事堂の前でな」


「……は? いや、いやいやいやそれはマズいんじゃ!」


「いや、俺も最初はそう言ったけどお前、ノリノリだったじゃないか!

考えてみれば同志の命をむざむざ犠牲にすることないもんな!

それでなんだけどさ――」


「ああ、俺、やっぱり帰るよ。今日はホント具合悪いから――」


「何言ってるんだよ、あ! ほら、そこの自販機。酒でも飲もうぜ。俺の奢りだ」




 ……目が覚めた。あれは夢……だったのか?

 確かに、胸騒ぎがしたからバーの近くまで様子を見に行こうかなと思った。

 あの話がまた勝手に進んでいるのなら、キッチリ否定し、すぐ帰るつもりだったんだ。

 でも……声をかけられてそれで……恐怖に駆られ、また飲みすぎたのか?

 ……いや、待て。ははは。考えてみれば

国会議員を誘拐なんてそんなことあるはずがないじゃないか。

 全部夢だ。最初から最後まで夢……。

それにしてもどんどん状況が……いやいや夢だ。構うものか。

そら、テレビでも点けて気分を……。


『続いてのニュースです。未だ議員の消息は掴めておらず――』


 嘘だ。あれ、あの、いや待て……逆だ。

 そうだ。俺はこのニュースを前にどこかで見た。それが夢に影響したわけだ。

ははは、夢の中で誘拐されたから現実で議員が行方不明になったわけじゃない。

 そんなことあるものか。あれは夢。それに、あの議員は不倫が暴かれたばかりだ。

きっとマスコミから逃れるためにホテルを転々としているのだろう。

もしかしたら愛人と逃避行ってこともある。

 そうさ、そうに決まっている。それか、あの夢は現実……いやいやいやありえない。

いずれにせよ、あのバーには、あの町にも近づかないようにしよう……。

 しばらくの間、真っ直ぐ会社から家まで往復するだけにするんだ……。




「……ん、あれ?」


「お? 起きたな。おいっす」


「あ、あ、え? ここ、え?」


「もー、どうしたんだよーあのバーで待ってたのに」


「いや、え、ここ、どこ?」


「どこって隠れ家さ。賛同者が用意してくれたんだ。

あのバーも良かったんだがなぁ。マスターも仲間になってくれたし」


「さ、賛同者……? でも、俺どうして」


「全然来ないからさ、同胞に連れてきてもらったんだ。

大丈夫か? 転んで頭打ったって聞いたぞ?」


「同胞……あたま……ああ、い、痛いかも。そ、そうだ、びょ、病院に……」


「ははは、大げさだなぁ。それはそうとこいつを紹介するよ」

「はっ! お会いできて光栄であります!」


「え、だ、誰? な、なんでそんなにかしこまって」


「はっ! 私のみならず、同胞一同! 貴方様には敬服する一方であります!」


「はははっ何を驚いているんだよ? アンタはボスなんだから当然だろ?」


「ボ、ボス? 俺が? ボス? 何で」


「何でってそりゃあな……あんなことまでされたんじゃ、みんな認めるしかないよ。

ホント凄いよ。思い出しただけで身震いする」


「身震い? 俺、何を」


「何をってほら、あの議員の事さ。アンタはアイツを燃やすことに反対しただろ」


「あ、ああ! そうそう! それで解放してやったのか!?」


「はははっ! 解放とは上手いこと言うな。そうそう、解放解放。人生からな」


「は?」


「見事な手際だったよ。冷徹で惚れ惚れするくらいさ。

酔っていたのにあんな繊細にナイフを、な! そうだろ?」

「はい! 見事な手捌きでした! 感服です!」


「あ、大丈夫大丈夫。キチンと処理したからさ。で、次なんだけど。

ああ、まずは乾杯だな。勝利の美酒ってやつだ。まあ、まだまだ先は長いがな」


「い、いや、酒はもう、いや、いやだ、いや……」




 ……目が覚めた。夢。夢。夢! 夢! 夢! そうだろ! 夢!

昨夜はどこにも出かけず家で寝ていた! そうだろ! 家に迎えなんて来なかった!

逃げようとして転んで頭も打っていない! コブが……。

関係ない! 俺は、関係、ないんだ……。



 月曜になり、出社したが、ひどい顔していると上司に言われ

しばらく休みを取ることになった。

 でもいい機会だ。しばらくはホテル暮らし。あの家には帰りたくない。

奴らに知られている……いや、あれは夢だから関係ない……でも……。

 そもそもあの男は誰なんだ。バーで知り合ったのか? 何者?

いや、夢だから誰でもないんだ。夢。夢夢夢夢夢夢……。




「あ、どうも先輩。目が覚めましたね」


「ん……あれ? お前、なんで、え、呼んだっけ?」


「ちょっと待ってくださいね。彼を呼んできますからっと、ははっもう来た」


「え、え、え? な、なんでこのホテル、部屋に? 鍵、鍵は?」


「よっす。何でってここは同胞が経営しているホテルだからさ。

彼から聞いたぜ? 会社、しばらく休むんだって? 困るなぁ。

怪しまれないように、革命の時まで普段と変わりなく過ごそうって決めたじゃないか」


「か、革命? い、いやそれよりもなんで会社の後輩が」


「え? ははははは! 僕もメンバーですもん。当然でしょ」


「そうそう、どんどん増えていくからな。やっぱりあの犯行声明が効いたなぁ」


「あれは痺れましたねぇ。先輩のあの主張、僕、パソコンで見ましたけど最高でしたよ。

まあ、その時は覆面してたし、あれが、いやあのお方が

先輩だとは思いもしなかったんですけどね。

彼にスカウトされて知った時はびっくりしましたよ」


「主張? 犯行声明?」


「そうだ、また新しい議員を捕獲しておいたからな。

撮影するから、この前のように頼むよボス。動画の編集は任せてくれ」


「この前って……俺、俺はあの後、何を」


「まあ、あれだけの事をしたからな。

そりゃ、さすがに疲れて会社を休めって言われるかぁ。まあ、まずは……飲もうか」


「先輩の好きな缶チューハイ買ってきましたからね!」


「やめ、やめやめ――」




 目が覚めた。夢……だ。ホテルのこの部屋には俺一人。

そうだ、一人だけだ。頭痛が……酒とは関係ない。

ああ、夢だ。夢。でももう眠らないようにしよう。

 怖い、怖い……ああ、不安だ……ひとりじゃとても抱えきれない……。

誰かに……言えないか。頭がおかしいと思われる。

医者に……でも医者も奴らの仲間だったら。

いや、夢なんだからそんなことあるはずが……。


 ああ、そうだ……ははは。これで少しは胸がスッキリするかも……。




「……お前の手記を読んだよ」


「え、あ、俺、眠って……?」


「ああ、俺が部屋に行ったときにな。

そうそう、ホテルを引き払うなら教えといてくれよ。探したぜ?

まあ、裏切り者がいるかもしれないから気持ちはわかるけど俺は裏切ったりしないからさ」


「もう、もうやめてくれ……誰なんだお前……」


「誰って仲間さ。決まってるだろ?」


「飲み、飲み仲間ではあったけど……もう、頼むから終わりにしてくれ……」


「ん? ああ、手記の件だな。すまないな。お前ばかりに背負わせて……。

まあ、勝手に全部読むのは悪いからポツポツとしか読んでないけど

悪夢を見るって話だろ? プレッシャーだよな。革命軍のボスってのはさ。

でも、俺も全力で支えるからさ! ほらこれ!」


「ぐ、軍? あ、そ、その注射は、何だ?」


「ははは! これを打つと興奮してしばらく眠気なんて吹き飛ぶんだ。

まあ、どうせあと数時間で始まるけどな。

でも、ボスが眠りたくないって言うなら俺は力になるさ」


「す、数時間? 何が……やめ、やめろ……」


「何って愚問だぜボス。俺たちは革命軍なんだ。さあ、夢は起きて見ようぜ」



 ああ、注射の中身が減っていく……これは夢。夢、夢、そうともありえない。

ははははっ、ああ、腕が痛いなぁ……。

 ああ、ははは、ああ、これは……ああ、頭が、景色が曖昧だぁ。

 いい気分だぁ……夢のような……でもこれは現実……? 

俺は今……どっちにいるんだ……?

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