箱の中身は
「ううーん」
と、自室で唸る、とある男。彼は先程、怪しい露天商から妙な箱を買って帰ってきた。
いや、正確には買わされた。手に取ったら買えと言われ、強引に。
露天商は魔法の箱と言っていたがあの強引な買わせかたからして
いや、そうでなくても当然嘘だろう、と彼は思っていた。
しかし、商品説明はちゃんとしてくれた。なんでも、開ける度に中身が変わるという。
ただし開けられるのは五回まで。中身を取り出せばそこでお終い。ただの箱になる。
何だか昔話でありそうだ。と、言うかそこから着想を得たのだろう。
しかし、それでただの箱に数千円の付加価値をつけたのなら大したものだ。
「いや、ついていないけど……。はぁーあ、引っかかっちゃったなぁ……」
天井を見上げ、ため息をしようが独り言を言おうが
押し寄せてくる後悔を消し去ることはできず
気にせず立ち去ればよかったなどとは後の祭り。
今ならば弁が立つ自分の姿が頭に浮かぶが、後悔先に立たず。
追い詰められると頭が回らなくなる自分の気の弱さをただただ恨めしく思う。
そして、箱の事も。
さて、彼が睨むその箱。片手に収まる程度のサイズ。その中身は何か?
せめて元が取れたらいいのだが、そもそも中身はあるのか?
と、手にした彼。その軽さに顔を顰めるも確かめるには開けるしかない。
「ふぅー……お! おお、おおおお?」
箱の中身は十円玉であった。それも箱にぎっしりと。
そして急に現れた重さに彼は戸惑いとこ興奮を抑えきれなかった。
無理もない。魔法の箱というのは本当だったのだから。
と、危ない。
「……ふぅー、セーフ」
危うく手から箱を、そして十円玉を落としそうになった彼はそう呟いた。
一つでも零したらきっと取り出したと見なされるだろう。
そうとも、十円玉なんていらない。確かに数は多いけど一万円もないだろう。
この箱の価値はそんなものじゃない。さあ、蓋を閉じ、もっと高級そうな何かを……。
と、彼が念じ、そして次に蓋を開けると
「……お菓子だ、な。うん」
今度は箱いっぱいにチョコやクッキーが入っていた。
ひとつひとつ、小粒でどことなく高級感があるが彼は涎を垂らすどころか口を曲げた。
見ようによっては宝石箱と言えなくもないが、やはり食べ物などつまらない。
そう考えた彼は蓋を閉じ、もっと価値のある物を、代えられない物がいいと願った。
「三回目……写真?」
写真。こんなもの……と思った彼だったがよくよく見ると
そこに映っていたのは彼だった。それも幼き頃の。
そして、その彼の隣で仲良さそうにして映っていたのは彼の初恋の子であった。
「あ……そうだ、あの日、公園の近くで偶然会って
そのまま一緒に遊ぶことになったんだっけ……。
特に親しくはなかったからその子と遊んだのはたった一回だけ。
でも、最高の思い出……」
と、呟き、自然と上を見上げ、締まりのない顔をする彼。
彼女と写真なんて撮った覚えもないが、そこは魔法の箱の力なのだろう。
束になっているので、写真はまだまだある。思い出は宝物。
その言葉は否定はしない上に気にはなったが過去は過去だ。
それに彼はまだ人生を振り返り、その価値の重さを理解するには若すぎる。
彼には未来がある。
「あ、そうだ。そうだよ。未来の何かが貰えたらいいじゃないか。
発明品とかできるだけ先の時代のものがいい。
さあ、箱よ箱。お願いします……はい、ドン!」
と、しっかりと伝え、勢いよく蓋を開けた彼だったが箱の中は空であった。
まだ四回目。三回限りと聞き間違えたか? と、彼は首を傾げ訝しがる。
いやいやいや、そんなはずはない。確かに五回と聞いた。
では、さすがに未来の物を出すのは無理ということなのだろうか。
わからないが検証することもできない。もう後がないのだ。
だったら貴重な何か、もう、とにかくものすごい価値のあるものがいい!
簡単には手に入らないような、ものすごいものが……。
そう念じ、彼は蓋を開けた。
「え……スイッチ? 何の? まあ、押せばわかるし
これで五回目だし何も手に入らないよりはいいか……さあ、何か起こしてくれよ。
あっと驚く何かをさ……」




