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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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予知能力者たち

「やあやあ、遅れて悪いねぇ。ちょーっと美女と遊んでやってたもんでねぇ。

ま、いつものことだけどもさぁ」


 そう言った男はドカッとソファーに腰を下ろした。

悪いね、と言う割には悪びれた様子はない。

それもそのはず、この男はわざと遅れてやってきたのだ。

そしてそのことは他のメンバーもわかっていた。


 ここは政府が所有する、とある建物の中。堅牢かつ豪華な造りの部屋で

場所は秘匿。知る者は少ない。警備も万全。

政府が選んだ腕利きの護衛が守っているのだ。

 高い酒やつまみ、飾られた絵などの装飾品の事ではない。

今日、ここに集まった彼らの安全を第一に考えているのだ。


「それで、どうだい? みんなの最近の調子はさぁ」


 ただ黙ったまま伏し目がちに男を見る一同に、男は『君に訊いたんだよ?』と

顎で指し、酒の入ったグラスを揺らした。


「えっと、まあまあかな。僕は余り出番がなくてね。ははは……」


「そうかい、まあそういう季節だものね。んで、君はどうだい?」


「ああ、まあ……特にないかな。良い事だけど」


「うんうん、そっちの君はどうかな?

まあ、ニュースを見てれば今年、目立った活躍がなかったのはわかるけどね」


「ああ、うん。まあ、そうだね」


「で、そこの君は……っとああ! 忘れてたよ存在感が薄くてさ」


「うん……ははは」


「なんだなんだみんな暗い顔をしてさぁ! ほら、この時計見てくれよ。

政府の連中がくれた金、つまり税金で買った物さ!

もっと特権ってものを利用しないとさぁ! 一度きりの人生だよ?」


「……うん、まあ」


「あ! そうか。君たちの能力じゃ、そんなにわがまま言えないか……。

いやぁすまないすまない。

そもそもこうして仲間同士集まれるのも僕の声があってのものだものな!」


「うん、そうだね……」


「どうしたどうしたみんな! せっかくの予知能力者仲間なんだぜ?

あ! 金が欲しいなら僕がお付きの連中に言って貰ってやるよ。

その服装からしてやはり報酬は全然なんだろ?」


「う、うん。そりゃ、地震さんに比べるとね……」



 今の時代、SNSがあるから目立つことは簡単だ。

何か人が真似できない芸や能力があるなら尚の事

そしてその能力が唯一無二なら言うことなしだ。

 彼らは予知能力者。『地震さん』そう呼ばれた、一番豪華な服装をしたその男は

その名の通り、地震を予知することができる。

 かつて、まだ何者でもなかった彼はある日突然、ピーンと地震を予知し

すぐにSNSに震源地および震度を書き込んだ。

 するとそれがピタリと的中。それが一度ならず四度続くとなると

人々の食いつきぶりも良かった。

 メディアに取り上げられる寸前で政府が彼に接触し、スカウトしたというわけだ。

 そして、他のメンバーも予知能力者である。

彼が話を振った順に述べるなら、台風、火事、大雨、噴火である。

本名は明かさず、それぞれ予知できる災害の名前で呼び合うことにしていた。


「おっと、またきたぞ! ほぉらぁ! ピピピピピピってな!

わかるだろ! アラームが鳴るようにさぁ! ん? ああ、噴火くんはわからないかぁ。

くぅー、これは金の音さ! と、おい! さっさと来い!」


 彼は付き人を呼びつけると耳元で囁いた。どうやらまた地震を予知したらしい。

 地震が多い国だ。その能力の重要性は

この国で暮らしている者なら誰にでもわかるだろう。

それゆえに他の者と比べて待遇がいい。

彼の予知能力のお陰で、前もって地震が来る場所を

専用のアプリで知らせることができるのだ。

 今では国民のほとんどがこのアプリを利用している。

警備上の観点から彼の予知能力を基にしているとは知られていないが。


 一同が横目で見ているのを彼は優越感たっぷりで眺めた。

 台風の予知も重要に思えるが、数が少ないうえにそう大きなものは滅多に来ない。

それに対策と言ってもできることは限られている。

おまけに今の時代、ある程度の発生と進路の予測は予知能力なしでも可能だ。


 火事の予知、これも重要に思える。

能力者が予知すれば、政府筋の仲介人を通し、連絡が行き

最寄りの消防署が現場に急行して火事を食い止めるわけだが

大きなものに限られている。

 尤もボヤ騒ぎ程度の小さなものまで含めたら、その対処に追われて大変だろう。

そしてその大きな火災だがこれもまた滅多に起きるものではない。


 大雨の予知に関してだが、これもまた季節限定的だ。

それに台風と同じく、予知能力がなくても今の科学技術なら予測は立てられる。


 そして最後の男は噴火の予知能力者だ。

彼も二回、SNSで噴火を予知した投稿をし、スカウトされたが

それ以降、噴火は起きないため現在、漬物のような扱いとなっている。

 噴火時刻や規模をピタリと当てたわけだから

間違いの可能性がないことはわかっているが今日ここにいるのも肩身が狭い様子。

拳を握り、唇を噛み締めるも、まさか殴るわけにはいかない。

 ただかつて体感した予知の瞬間。

君が必要だと言われたあの喜びを思い返し、もう一度と祈るのみ。


 地震の男は彼らのその様子を眺めるのが好きなのだ。

 予知能力に関しては他言厳禁。

だからこそ秘密を知る彼ら予知能力者にしか能力を自慢できない、話せないのだ。


「フフンフンフーン……ん? そこの彼は誰だ?」


「さ、さあ? 新入りとしか聞いてないけど……」


「ふーん……おい、こっち来て座りなよ」


 地震の男の呼びかけに応じ、その痩せた男はゆっくりと椅子に座った。


「なんだなんだ暗い男だなぁ……。それで君は何の予知能力を持っているんだ?

ああ待て! 当ててやる……そうだなぁ、落雷なんてどうだ?

その恰好からして君に使う予算なんて碌に下りてないんだろ?」


「ちが、ちがう……うぅ」


「ふーん、それにしても暗い奴だなぁ。君に注目する時間がもったいない。

もう飽きたしサクッと言ってくれ」


「い、い、いん、い……」


「はあ? 聞こえないよ。何をブツブツ言っているんだ」


「……ま、まだ政府にも言っていないんだぁ。怖く、怖くて間違いだったらいいあ、あ

あああぁぁぁ! 頭が割れそうだううううぅぅぅ……

ひ、一人じゃ抱えきれなくて……きょ、きょう、ここに来たんだぁ……。

の、能力者同士、も、目前に、に迫る問題をど、どうしたらいいか

あ、あ、あ、は、話し合いたくて……」



 全員のアラームが鳴り始めた。

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