写経
「……なんだか心が洗われていくのを感じます」
「ほう」
「精神を集中させるからですかね。
最初は大雑把で、ただ自分の感情をぶつけるだけだったんですけど
途中から……そう、まるで導かれるように、この手が動くんですね」
「そうですか……ただ――」
「ほら! 見てください! 最初と比べて綺麗になってませんか!?」
「いやぁ、最初と比べたら汚くなっているんじゃないですかね」
「そんな! ほら! よく見てください!
この辺が一番最初で、今やってるここが最新です!
ね? ほら、綺麗、ううん、それだけじゃなく何かこう
見えない力のようなものが宿っている気がして」
「まあ、そこは否定できませんがね。念みたいなものが……」
「そうでしょうそうでしょう。雑念が振り払われ
心が解放され、邪気のようなものがこの一点に宿っているんですよ」
「邪気がたくさんですね」
「ふふふっ、お恥ずかしい。でもまだまだこれからですよ!」
「あー、いやもうその辺でやめましょうか?」
「嫌よ、気分が乗って来たんだから!」
「あー、これから行く場所でも多分、似たような事できますから」
「ここじゃなきゃダメよ、彼の――」
「さあさあ、ね? そうそうスプレーを置いて手を出して。
はーい二十三時四十五分建造物損壊で現行犯ね。
お姉さん、人の家に落書きはまずいでしょーしかも『呪』って……」




