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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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男と女

 夜。繁華街。大通りから一本入った道の真ん中にて……。


「お、おい……! 空を見ろ! UFOだ! ついに宇宙人が攻めて来たぞ!

……ふくっははははっ!」


「ちょっと、やめてよケンちゃん! ああ、もう、こっちを見てる人が……」


「見られて何が困るってんだよぉ。よーし、こうなったら、ここも見せちゃおうかなぁ?

御開帳ってな!」


「やめて! 酔いすぎよ! ああ、マズそうだわ、そこの道に入るわよっ早く!」


「へいへい、そんなに怒っちゃやーよってね!」


「しっ黙って来るの! 私たち、声でバレちゃうんだから!」


「おお? さすがスーパーモデルさんは意識の高さが違いますなぁ」


「本気で怒るわよ……」


「はいはいっと、しかしアイツらみんな空を見上げてたなぁぷっくくく」


「その後であなたを見たけどね。夜とは言え、街中であんな大きくて野太い声で

まったくもう……」


「ま、大きくて野太いのは声だけじゃありませんがなぁ」


「知らないわよ」


「へへへっ知ってるくせに。忘れたってんならこの後

ホテルでたっぷりと思い出させてやってもいいんだよぉ?」


「はいはい、勝手に言ってれば」


「もーう、冷たいのねん」


「捕まるかもしれないのよ。ああほら! ケンちゃんが注目を集めたから

もしかしてって思って追ってきているわ!」


「くぅ~有名人は辛いぜ」


「蹴るわよ」


「ごめんごめんてぇ。ほら、そこの公園の林でやり過ごそうぜ」


「ええ、そうしましょう」


「……なあミキちゃん」


「ふーっ、なに――痛い!」


「蚊がとまってたぜ」


「そう、ありがと」


「逃したけどな」


「なんなのよ!」


「なあ、ミキちゃん」


「今度はなによ……」


「ミキちゃんはすげえな」


「きゅ、急に何?」


「だってよ、恐れずに自分を表現してるんだぜ」


「……ああ、モデルって言ってもインターネット上だけの事よ。

それにあなただって表現力なら」


「いや、それでもすげえよ。そのドレスだって自分のデザインなんだろ?

俺なんてなぁ、俳優つったって事務所と監督の言いなりだよ」


「……やっぱりあなたの方が凄いわよ。

自分を偽らずに堂々と生きて……あ、ごめんなさい」


「へへへ、いいんだよ。きっと、どっちも間違っちゃいないのさ。

自分の心を隠して生きていくのと、体を隠して生きていくのと」


「……ねえ、ケンちゃん。人、増えて来たね」


「あー、そういや、今日は花火大会があったっけなぁ。その見物か

それかとうとう宇宙人が来たか」


「本当に来ると思う……?」


「さあな、でもテレビに出ている奴らはそう言ってるぜ。

『これは宇宙人の仕業だ!』ってな」


「そうね、そうとしか思えないわよね……痛! 背中、また蚊?」


「いや、気合入れつーか元気づけに」


「馬鹿ね! 私たち今隠れてるのよ! やめなさいよ!」


「へへへ大丈夫、気づかれてないさ。何ならここでおっぱじめてもいいぞ」


「馬鹿ね、自殺行為よ。晒し者にされるわ」


「はははっ! 違いねえ。しかし、どこもかしこも女だらけだなぁ」


「……もう何年になるっけ」


「俺たちが出会ってからか? ありゃ、奇跡みたいなもんだったなぁ」


「違うわよ。今みたいな世の中になってからよ」


「あー、出生率の事か? さぁ、何年かなぁ。

まさか男が全然生まれなくなるなんてなぁ」


「蚊ね……」


「ん、いたか?」


「違うわよ。宇宙人の仕業の話」


「あー、電波だかウイルスだかをばら撒いて女が女しか産めない体にしたって説だろ。

はははっ、本当だとしたら上手い事考えたもんだよなぁ。でもなんで蚊の事を?」


「蚊は感染症を媒介するから危険だって言って

遺伝子操作した蚊を放って、蚊の数を減らそうとしたこと昔、あったじゃない」


「あー、あったっけな」


「まあ、あれは『生まれたメスが成虫になる前に死ぬ』って遺伝子を持ったオスの蚊を

バラ撒いてメスと交配させてって話だから少し違うけどさ……」


「まあ、最終的に滅びるのならオスを残すよりはこっちの方が安全だよな。

男は争いが好きだしバカだし、どうせ人類滅亡するなら

最期に全世界の核爆弾をみんなで打ち上げよーぜなんて言い出すかもしれない」


「ふふふっ、有り得るかもね。ほーんとバカよね。男って……」


「おいおい俺を見ながら言うなよ。お、花火か? 今の音」


「核爆弾かもよ?」


「おいおい」


「ふふふっ……ねえ、ケンちゃん」


「あん?」


「私の事、愛してる?」


「はっ! 当然だろーが」


「ふふっ、ケンちゃんのそういうところ好きよ。ハッキリしていて男らしいの」


「今じゃ、女の中にも男らしいのが多いって話だけどな。

見てみろよあの太い腕、それに毛。最近じゃ身長もバカ高い奴が増えてきたし

ああほら、どいつもこいつも血走った目をしてやがるよ。気性が荒くてまるで男。

でも俺は御免だね。まあ、そもそも男って何だろうなってもんだが」


「そうね、何なのかしらね私たちって……ああ、また人が増えてきたわね」


「ああ、そうだな……逃げられないかもな。ミキオは離れてていいぜ。

元はと言えば俺のせいだし、それに狙いは今のところ俺だけだろーからよ」


「嫌よ、一緒にいる。これくらい修羅場でも何でもないわ。それに……愛してるもの」


「だからだよ、痛!」


「蚊よ」


「本当か? まったく……っと飢えた女共がじわじわ近づいてきてるな。まだ走れるか」


「ええ、行けるわ。あ、その前に靴脱がしてくれる?」


「あいよ、へへっ服はまだ脱ぐなよ」


「当然よ、まあ捕まったら嫉妬で身ぐるみ剥がされかねないけどね」


「そうなったら女ども、びっくりするだろうな」


「ふふふっそうね。御開帳よ、見せつけてやるわ」


「ひゅ~、だがあの立派なモノを拝ませるのは俺だけにして欲しいぜ」


「じゃあ、走らないとね」


「ああ、明日に向かってな」


 手を取り合い、走る二人。獰猛な夜の叫声と汗の匂いを置き去りにし

街の玉のような光の中にその自由な背は溶けていった。

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