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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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たらい回し

「あー、もしもし? 実は――」


 ああ、電話する前に何度か深呼吸をし、心を落ち着かせたつもりだったが駄目だ。

またしても動悸が……。

 だがそれも仕方ない。さっき目にしたものを話そうとすれば

当然、その光景が頭に浮かんでしまう。


 死体。


 隣の家の庭で男が倒れているのを

家の二階の雨戸を開けたときにたまたま目にしてしまった。

 呼びかけても男は指一つ動かさなかった。恐らく死んでいるだろう。

葬式以外で死体を見るのは初めてだが

気配というか雰囲気というか、なんとなくわかるものだ。

だからとにもかくにも、まずは救急車だと思い、電話を掛けたのだ。


「――と、いうわけなんですが」


『はあ、それで意識や怪我の有無などの確認は取れましたか?』


「え、いえ、だから人の敷地なのでそう、おいそれと入るわけにも……。

そもそも塀と門がありますからな。乗り越えていくには最近、足腰がどうもねぇ。

まあ、若い頃だったら軽々と行けたでしょうが」


『でしたら我々にもちょっと……』


「……ん? え、どうして?」


『最近、流行している伝染病の可能性もありますからねぇ……

まず保健所のほうにどうぞ、では』


「あ、ちょっと!」


 ……切られてしまった。なんてそっけないんだ。

こっちはこうして朝早くからわざわざ連絡してやったというのに……。

 なんて、いや、腹立たしいが落ち着こう。冷静に、だ。

そうとも仕方ない。きっと忙しいのだろう。

そもそも救急車は死体を運ぶためのものではないのだ。保健所だな……よし。



「あーもしもし」


『はい、こちらは保健所です。どうなさいましたか』


「実はですね――」


『……なるほど、全く動かないんですね? それで死んでいると』


「ええ、恐らくですがね。しかし驚きましたよ。

まあ、そうは言っても冷静に状況を判断し、そちらに連絡をしたんですがね」


『恐らく……ですか。でしたらまず警察に通報を。

事件の可能性もあるので現場に入るわけにも……では』


「え、あ、おい!」


 ……また切られてしまった。なんていい加減なんだ。

思えば、面倒臭そうな感じがしてたな。

どいつもこいつも、ああ、イライラする……しかしまあ、警察か。

考えてみれば尤もだ。うん、初めからそれに任せておけばよかったかもしれん。



「あー、もしもし」


『はい、こちら警察です。事件ですか? 事故ですか?』


「ああっと、事故、いや、事件かな?

まあ、その辺の判断はプロの方にお任せしますよ。実は――」


『……なるほど、しかし我々は人の敷地に勝手に入るわけには行かないので』


「え、何? いやいやいや。じゃあ、来てくれないのか?」


『まあ最近、特にその辺が厳しくなったので……』


『じゃあ、何か? 私が隣の家の庭に入って死体を道路に放り出せばいいのか?』


『それは不法侵入、犯罪ですよ? それに伝染病の可能性もあっては……保険所に』


「さっきした! それでまず警察に通報をと言われ……切りおった」


 全く世の中どうなっているんだ! そっちがその気ならもういい! 

もう私の知った事ではない! 

 ……と放置しようにも、虫などが湧きそうで気分が悪い。

それに腐れば臭いも気になってくるだろう。想像すると鼻がツンとしてきおったわ。

 そもそもあの男は誰だ? 隣の家は空き家のはず。管理者か?

管理者……そうだ、あの土地の持ち主に連絡すれば……番号がわからない。

 役所に訊けばわかるか? いや、どうせ教えてはくれないだろう。

迷惑をこうむったと弁護士を通してもらえれば、とでも言われるかもしれない。

 たらい回しだ。あああ、腹立たしい。イライラする。まったく気分が悪い。

 

 気分……そう言えば気分が少し……。ううむ、早起きのせいだろうか。

死体なんてものを見たせいか? 頭痛が……それにさっきから動悸もどんどん……。

頭がカッカしているのも……。

ううむ、救急車を……ま、まあ大したことはないかもしれないが……


『はい、こちら119。火事ですか? 救急ですか?』


「きゅ、救急……住所は」


『はい、どうしましたか?』


「実は――」


『……あー、気分が悪いかもしれない、ということでしたらまずは保健所のほうに。

陽性か陰性かわかりましたらお電話を。聞こえてますか? もしもし? では……』






「田舎町で集団中毒死? ガスか?」


「さあ、それが何とも……」


「んん? 詳しい調査のほうはどうなっているんだ?」


「それが担当がまだ決まらなくて……」

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