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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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贈られた赤子

 ある時、空から一隻の宇宙船が地球に着陸した。

 報告を聞き、慌てて出迎えた国の代表に、その宇宙人はコブ星人と名乗った。

 どうやら翻訳装置を使っているらしく流暢な話し方、それに加え二足歩行の人型で

どこか身近に感じる見た目なので、緊張感は持ちつつも自然と受け入れることができた。


 そして、コブ星人の地球観光が始まった。

始め、地球人たちは緊張した面持ちであったが

コブ星人にとって地球はたいへん魅力的らしく終始、好感触。

 勿論、献身的な接待のお陰に他ならないが

いずれは大々的に観光ツアーを組むなどしたいとまで言ってくれ、人々は沸いた。

遅ればせながら他国の代表もコブ星人に挨拶を交わし

コブ星人は一週間ほど滞在した後、満足げな様子で母星に報告するために帰ると言った。

 一同、それを聞いてホッと一息。戦争などにはならなくて済みそうだ。

 そしてその別れ際、地球人との永遠の友情を誓い

コブ星人からあるモノが贈られることになった。


 赤子である。

 

 当然、地球側は驚き、 まさかこちら側も贈らなければならないのか……と

思い戸惑いもしたがそういうわけではないらしい。

いくつかの地球の物資との交換だった。

 同族、それも赤子を差し出す宇宙人の価値観に地球側は面食らったが

まさか断るわけにもいかない。

それに昔は人質代わりに他国の王や権力者の子供を預かる事などあったはずだ。

そう自分を納得させ、可愛いですねぇなどとおべっかを言いながら赤子を抱きかかえる。

 コブ星で今後の方針を決めるため、しばらく来ないが大事に育ててくれと念を押された。

 もしかしたらこれはある種のテストかもしれない。

立派に育てれば合格。人類はコブ星人の良きパートナーに。

そうでなければ、なんなら死なせでもしたら……。


 ゾッとする反面、上手く行けばやはり利益は大きい。

 さて、問題はどの国が育てるのか。当然、着陸した国だろう。

いやいや、そうは言ってもここは小国だ。

大国こそ、教育やいざという時、最高の医療を施せる。

 と、目下、バチバチであったがコブ星人から贈られた赤子は一人だけではなかった。

 それならばと主要な国家、六ヶ国で一人ずつ育てることになった。


 無論、懸念もあった。そもそも彼、コブ星人は地球人よりも賢い。

あの宇宙船、その技術力がその証明。

 機密事項なのか見合わないと思われたのか

仕組みや他の装備品など何も説明はしてくれなかったが

地球より遥かに進んだ文明であることは間違いない。

 で、あるならばその子供も賢い。

そのうち、国の中枢にまで入り、内部から支配されるのでは。

そういった作戦なのでは?

 ……いやいや、そんなこと回りくどい事をせず、真っ向勝負でも

コブ星人の勝利は揺るがないだろう。たった一人の使者の宇宙船があれなのだ。

当然、戦艦、戦争用の宇宙船は遥かに大きく、優れていることだろう。

 それに、上手く育てれば地球人類のためになる大発明をしてくれるかもしれない。

それこそ宇宙船なんて……。


 と、そんな期待や疑念を抱きつつ各国、赤子を大事に育てた。

しかし、大切にしすぎたゆえか、あるいはやはり環境の違い、疎外感から

そう上手くはいかなかった。

 ある国の子は太りすぎ、銃と暴力を好み

 またある国の子はやたらと文句を言うようになった。

 またある国は残虐に。

 またある国は宗教に傾倒。

 しかし、悪い事ばかりではない。

 ある国の子は世界的なミュージシャンに。

元々、知名度は世界最高峰なのだ。才能が有ればそれだけ注目も増す。

 そして宇宙船が降り立ったその島国ではその知名度を活かし、政治家になった。

後に賄賂等、汚職の嫌疑がかかるが、それはまた別のお話。


 いずれにせよコブ星人の子らはどの子も賢く、良い部分もあり大事に見守られた。

 そして人々は時々、空を見上げ今か今かと宇宙船を待ち続ける。




 と、そんな彼らの想いも知らず

母星に帰ったコブ星人は宇宙船のレンタル料金を払った。


 ワープを使ったとは言え、時間をオーバーしていたので料金が割り増しだった。

手痛い出費だったと顔を顰めるも予想外の収穫。

たくさん貰った土産を売れば何とか賄えそうだ

と、ニンマリ笑い、コブ星人は地球でのことを思い返す。


 不倫相手との子を手頃な星へ捨てに行くだけのつもりだったのに

良いところが見つかった。

 こっちが膝をついて頼み込む前に勝手に使者と勘違いされ

あれよあれよという間に事が運んだ。

 宇宙船や翻訳機など、どういう技術なのか聞かれたが

そんなこと開発者でもない俺にわかるはずがない。

大体、奴らの使っている道具だって

その仕組みも分からずに使っているのではないのか。


 しかし、あの謙った態度。きっと大切に育ててくれるだろう。

火遊びからできた子とは言え、情はある。安心だ。

 だが、まさか六つ子とは恐れ入った。

仕事だと言って大分、家を空けたが妻にもいい土産ができた。

 おお、何ともかわいい。我々に似た、恐らくは遠縁の生き物なのだろう。


 コブ星人はケースの中の猫を見て微笑んだ。


 そして、姥捨て山ならぬ子捨て橋として

良い場所があると他の宇宙人の間でも噂になるのは先の話。

 それが幸か不幸か、いずれにせよ地球人類が宇宙進出したことには変わりないのであった。

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