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夜。一軒の平屋。そこに集まった三人の男に一人の女は声、それに息を潜めていた。
やがて、大きくため息。まず、一人の男が口を開いた。
「……揃ったな」
「ああ、この件を知っているのはこれで全員だ。まあ、アイツを除いてだがな」
「ああなっては仕方がなかった。殺すしかな……」
「そうだな。他に方法はなかった。
そして、それもこれも全てやっぱりあのい――」
「ね、ねぇ、あなたっ、ほ、本気なの? 本気であの子を――」
「口を挟むんじゃねぇ! もうあれは俺たちが知っているあの子じゃないんだ!
化物に乗っ取られちまったんだよ! お前も見ただろう!
あの子の顔が裂け、そして、そして……」
「ふぅ……落ち着け。お前ら夫婦がどれだけヤツを大事にしていたかは
俺たち、みんなが知っている。しかし、だ。
ここら一帯の、いやこの町に住む者全員の命がかかっている」
「う、うう。わかってます。でも、あ、あたし、悲しくて……」
「それも全て終わった後に浸るものだ。で、奴は納屋だな?」
「ああ、さっき確認した。奴め、ないてやがったよ。
自分をどうする気か感づいているのかもな。さあ、今すぐにでもやろう」
「くぅ! あの時、俺があの子を連れて
空から落ちて来た星なんかを見に行かなければ!」
「たまたま現場近くにいたのなら仕方ない。俺だってきっと見に行ったさ。
さあ、やろう。全員で行くぞ」
「はい……」
「おう」
「よーし……」
と、全員が立ち上がったその時であった。
一人の男が戸を勢いよく開けて入ってきた。
「た、大変だ!」
「お、おお。茂吉か。そう言えばお前の事忘れてたぜ」
「ひでえな旦那! ってそれよりも大変だよ!」
「なんなんだ騒がしい。ん? 外、今の声……まさか」
「あの子よ! あの子が外に!」
「な、なぜだ! ちゃんと閉じ込めてたはずなのに!」
「ん? あらお隣の奥さん。何を騒いでってどうしたの?
夜に皆さん揃って悪だくみぃ? なんてね、ふふふ」
「ああ、お隣の。いやね、ちょっとまあ、相談事というか、それよりもうちの子が」
「ああ、あの子ね! やだわもう、子供の悪戯かしらねぇ
そこの納屋に閉じ込められていたのよ!
まったくすごく吠えてうるさいったらありゃしないんだから。
でも大事に扱わなきゃね。お犬様だもの」
「お、お犬様……?」
「そーそーそー俺っちが言いたかったのはそれなんだよ!
生類憐れみの令! 徳川の将軍様がお触れを出したんだよ!
犬っころを殺せば極刑だとよ!」
「そ、そんな……」
月光の下、犬の皮を被り、鳴き声を上げたその正体が何たるか
町人の理解は及ばなかったが、ただ歓喜していることは全員がわかっていた。




