発表の場
『僕たちB班の研究テーマは【思い込み】についてです!
旧校舎には幽霊がいる。そう、この学校の低学年生たちの間で
噂になっていることは、みんなも先生もご存じだと思います。
今回はその調査……と言っても幽霊を見つけようというわけではありません。
六年生の僕たちはさすがにその噂を鵜呑みにはしていませんからね。
そもそも幽霊なんていません!
目ではなく、脳が見せる錯覚です!
でも、幽霊がいる、幽霊を見たという思い込み。
それが人間の心や体にどういった影響を及ぼすのか
どうして幽霊が存在すると思い込んでしまうのか、調べてみることにしました!
今回、僕たちは先生の許可を取り、夜中、旧校舎の中に入りました。
そこで起きた体の不調、体温、見たものなどを記録。
何がどう影響するのか。原因は何なのか調べるのです。
班の中には特に怖がりな奴がいるので注目です(笑)
では、続きは次の班員にバトンタッチです! 六年二組B班、班長大山健二でした』
『夜九時。私たちはお借りした旧校舎の鍵を開け、中に入りました。
夜道が心配で、送り迎えを買って出たお父さんも中に入りたがり、止めるのが大変でした(笑)
木造、三階建ての旧校舎。
中は埃っぽいような黴臭いような、そんな空気でした。
時折、軋む音や家鳴りがし、不気味な雰囲気でした。
一応、先生方が時々点検、パトロールに中に入るみたいなので
床が抜けちゃうとか、そんな心配はなさそうでしたが電気はつきません。
なので私たちB班の六人は用意した懐中電灯をつけ、前に進みました。
確かに、一人だったら少し怖かっただろうけど、みんながいて
それに……宮野くんが大声で歌ったりふざけたりしたので全然怖くありませんでした!
もう、それじゃ意味ないんだよ! ってみんな笑いながら怒りました!
まあ、一人いつまでも暗い顔をしている人がいましたけどね(笑)
幽霊みたい、なんてね(笑)
私の割り振りはここまで! ありがとうございました!
続きはお調子者……ムードメーカーの宮野君です!
六年二組B班、川下柚希』
『ほい、ムードメーカーです(笑)
俺たちは恐れずどんどん前に進みました……っとビビリな一人を除いてね。
まあ、むしろビビッたほうがいいんだろうけど(笑)
ビビリ君は入った時からずっと震えながら一番後ろについてきました。
先頭を歩かせようとしたけど全然ダメ。進めないの(笑)
ションベン我慢している時みたいに足をぐにゃって曲げてておもろかった(笑)
それに汗もかいてて気持ち悪かった(笑)
ああ、これじゃアイツの観察日記みたいになっちゃうな(笑)
肝心の幽霊はどこにもなし!
旧校舎の幽霊の噂話はいくつかあるけど……なんだっけ?
ま、次のメンバーがまとめてくれるでしょう(笑)
あ、そうそう。デカい鏡があってそれに何か映るのは覚えている。
だってアイツをその前に立たせようとした時のあの嫌がりようマジで爆笑!
ほい、俺の担当分はここまでね!
六年二組B班、宮野航大』
『はいはい。旧校舎の噂は全部で六つ。
宮野くんが説明……不足だけど一階の大きな鏡に未来の自分。
それも死ぬ時の自分の姿が映るっていうのがまず一つ目。
二つ目、廊下を走る白い服の女。
三つ目、複数名の謎の叫び声。
四つ目、窓から校庭を覗く死んだ子供の霊。
五つ目、子供の泣き声。
六つ目、ひとりでに跳ねるボール。
どうして六つ? こういうのって七不思議じゃないのって思いましたよね?
実はあの旧校舎にまつわる幽霊話は他にもいくつかあるんですけど
それも含めちゃうと二十不思議ぐらいになっちゃうんですよ(笑)
みんな面白がって、話を作っちゃうんですね。
実は私も昔作ったことがったりして(笑)
でもダメダメ。定着しませんでした。
今回、ご紹介した六つが定着した幽霊話というわけです。
でも……正直しょぼいですよね(笑)
目撃した人が複数名いるから定着した話みたいなんですけど
どう見ても忍び込んだ子がいたってだけですよね(笑)
まさに思い込みです。最後のボールとか絶対男子の仕業でしょ(笑)
でも彼、ビビリ君はずっと怖がってました(笑)
本当に具合が悪くなるんじゃないかって思いましたもん。
我が班の貴重な人材ですね! 実験の! (笑)
冷や汗ダラダラで、もしかして取り憑かれてたり? (笑)
さて、旧校舎の噂についての、もう少し詳しい話は
黒板に貼っている模造紙に書いているので見てください!
はい、私の担当はここまで、次よろしく美咲ちゃん!
六年二組B班、林田幸穂』
『はい、調査の結果、幽霊らしきものは結局見つけることができませんでした。
体の変化とかも特にないですね。そもそも、怖がっていないんですもん。
そう、一人を除いてね。彼は明らかに体調が悪そうでしたが
そろそろ帰るとなると少しづつニヤニヤと笑顔を見せるようになりました。
きもちわるーい、なんて肩を小突かれてましたけど嬉しそうでした。
しかし、何の成果もなしでは帰れません。
そこで、班長の大山くんが彼に追加調査を命じました。
旧校舎に泊まり、そこでの体験を記録するという名誉な事です。
彼はびっくりしていました。
いくら土曜日の夜で次の日も休みと言ってもそんな急な話。
彼が納得しても親御さんが心配するから無理だと私は思いました。
でも、さすが班長。
実は大山くんは事前に泊まることを彼に話し、親を説得するように言っておいたのです。
でも、それは校庭にテントを張り、みんなで旧校舎を見張るという話でした。
嘘も方便というやつですね。
彼はすごく駄々をこねましたが結局、班のためということでOKしてくれました。
鍵を貸してくれた先生には彼は早々に帰ったと伝えることにしました。
と、いうわけでその体験、また自分に起きた変化などの報告をお願いしますっ。
六年二組B班、森上美咲』
「六年二組B班、水谷優太です。
あの旧校舎に行った後、確かに僕の体に変化が起きました。
頭痛に吐き気。手足の震えに泣いてしまいたい気持ち。
目を閉じると浮かぶ怖い顔。耳を塞いでも聴こえる声。
……今回。僕が怖かったのは幽霊より、班のみんなでした。
校舎の中を進んでいる間も僕を叩いたり笑ったりして
それこそ悪霊にでも取り憑かれているようでした。
でも、よく考えたらいつものこと。
ここに泊まるのなんて嫌だと言った僕を、彼らはロッカーに閉じ込め
入り口を壁に向けて簡単に出られないようにしました。
おまけに机や椅子を押し付けて補強まで。
僕を置き去りにし、遠ざかる彼らの笑い声。
懐中電灯を取り上げられて暗く、一人で怖かったけど
でも僕は彼らと離れられたことにどこかホッとしていました。
一人でガタピシ、ロッカーの中で暴れて四十分くらいかけて
どうにか出ることができました。
月曜日、学校に行くと彼らは悪びれもせず、さっき僕が読んだ原稿を見せてきました。
他の五人は日曜日に集まってお菓子を食べながら、それを書いたらしく、あとは僕だけ。
長めに、面白く書くようにとのことでした。
あの旧校舎に行ったせいで具合悪くなったことにしろ、とか
何なら発表当日は休め、代わりに読んでやる、とか。
そのほうが絶対面白い、みんなの興味を引くからと。
なので僕は言われたとおりにしました。
興味を引きましたよね?
何せ他の班員全員、今日来てないんですから。
僕は朝早く、彼らを旧校舎に集めました。
あの夜に窓の鍵を一箇所壊しておいたから中に入るのは簡単でした。
彼らは今日、僕が休まなかったことにブツブツ文句を言ってきましたが
僕はあの夜あの後に一人で調べてたら面白いことがわかったと言って
彼らに一人ずつ別の部屋に行くようにお願いしました。
それぞれの場所で順番に儀式を行うとすごいことが起きるって。
もし、何も起きなかったら僕が取り憑かれたことにして保健室に運ばれるようにしよう
そのほうが面白い、なんなら窓ガラスを頭から突き破ってもいいと彼らに言って。
すると、嫌々だった彼らは乗り気になりました。
何発か殴ってやろーぜ、と言っていたのが聞こえていました。
彼らは僕に言われた通り、一人、教室の入り口に背を向け
目を閉じて正座していました。
まるで首を斬られる前の罪人のように。
さて、この発表は【思い込み】についてでしたね。
幽霊がいるかどうかはわかりません。
でも、思い込みは危険だと思いました。
だってあっさり死んじゃうんですから。
僕らB班の発表は以上です。ご静聴ありがとうございました。
やり遂げられてよかったです」




