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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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見えているもの

「なぁ……なぁってば」


「……ん、先輩。今呼びました?」


「ん、まあな……」


「何すか?」


「いや、うん……まぁ」


 今日こそ訊くつもりで声をかけたのに、つい、尻込みしてしまう。

 深夜のコンビニのバイト。客はいない。手は空いている。だからこそ訊きづらいんだ。

『どうして時々、何もないところを見つめているんだ?』なんてこと……。


 そう、後輩の林田は時々、まるで何かに取り憑かれたみたいに一点を見つめている。

『ああ、俺、霊が見えるんすよ』なんて言われたらもうバイトを辞めようとさえ思う。

俺はそういう類の話が苦手だ。

 だが気になる。怖いもの見たさ。単純な男だ俺は。

 いや、でもやっぱり怖い。

それに知らなくていい事なんて世の中にいくらでも……。


「何すか?」


「……いや、やっぱいい」


「そうっすか」


 ……結局、訊けずじまいだが心臓は、胸は正直だ。

 ホッとしている。心地良ささえある。

少々情けない気がして自己嫌悪もあるが

まぁ、実際訊いたところでまさか本当に幽霊とは、ん、なんだ……?

 今一瞬、アイツの視線の先がまるで陽炎みたいに揺らいで……。

 何か……ある?

 なんだ?

 ん、あれ?

 目を細めたら見え……あ、あ、ああ!


「なぁ! おい!」


「だから何すか!」


「お、お前、幽霊が見えているのか?」


「……はぁ?」


「い、いや、だって、さっきもほら、ただ黙ってあの辺を見つめていたじゃないか!」


「ん、ああ、頭ん中で作曲してたんすよ。ほら俺、バンドやってるって前に話したでしょ?」


「あ、ああ、そうだったかな」


 じゃあ、あの霊みたいな、揺らぐ細い黒煙のようなものは一体……。

俺の目が疲れてるのか?


「そうっすよ。てか、いつライブに来てくれるんすか? チケット買ってくださいよ」


「ああ、今度な……」



 俺はそう答えたがライブには行かなかった。

 行くつもりはあった。嘘じゃない。

 死んだのだ。林田が。

 あの妙なものとの関連はわからない。

あれ以来、いくら目を細めてみても見つからないからだ。

 まあ、アイツに取り憑いていたのなら、いなくなったと考えるのが妥当だが……。


「先輩、先輩!」


「ん、なんだ? 質問か?」


「その……先輩って幽霊とか、見える人ですか……?」

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