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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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昔はよかった

「昔はよかったなぁ……」


 それがそのバーに来る客来る客みんなの口癖。もはや乾杯の挨拶に近かった。


「やぁどうも、こんばんは。ムカシハー」

「ああ、久しぶり。ムカシハー」

「どうもどうも、じゃあさっそく、ムカシハー」


 と、グラスを合わせ、一気に飲み干す。そしてため息。これもお馴染みの流れ。


「最近じゃすっかりこの視力も衰えちゃってねぇ」


「俺なんかほら、肌がカサカサだよ」


「それは水気が足りないからじゃない? お肌の話なら私なんて……」


「いやいや、貴女はつるつるお綺麗じゃない。私は首が痛くてねぇ……それもこれも」


「良い男に会ってないからよねぇ! わた、わたし、もう我慢の限界だわ!

もうこうなったら今晩にでも……ふふふ、素敵な声を上げさせてやるわ!

何を、どんな手段を使ってもねぇ……」


「駄目よ! 今の時代そんなの……!」


 一同は宥め、そして慰め合った。そしてまた、ため息。これもお馴染みの流れである。


 と、そこにドアを開け、中に入ってきた男が一人。


「こんなところにバーがあっ……あああ、うわああああ!」


 男は踵を返し、逃げ出した。

その慌てふためいた様を見届けた一同に笑みが零れた。


「ああ、懐かしや。本当に昔はよかった……」


「そうそう。夜中、自由に出歩けた上に

見つかれば勝手に妖怪だのと言われ、名前をつけられ怖がられた」


「それが今じゃ技術が発展し、見つかればすぐに写真が撮られる始末。

UMAと呼ばれた連中も最近は地球に来なくなったよね」


「変装が面倒だからねぇ。バレると宇宙法に触れるし……」


「はぁ、また悪戯したり、地球人を驚かせてみたいわぁ……」

 

 

 一つ目小僧、河童、のっぺらぼう、ろくろ首、お歯黒べったりはまたグラスを合わせた。

 移り変わる時代と風景。どこか寂しさを覚えるのは彼らも同じ。

 かつては墓場などで行われていた、妖怪と呼ばれた宇宙人たちの宴も慎ましやかなものに。

 大らかな時代。戻れぬあの時代に乾杯。

 口を近づけたグラスはため息で曇ったが、頭の中では先程の男の悲鳴が残響していて

その表情はどこか穏やかであった。

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