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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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犯人の名

「犯人は……お前だ!」


 こんこんと雪が降る夜、とある屋敷。

探偵は両手の拳を握り、わなわなと震えながらそう声を上げた。

 暖炉の火がバチッと爆ぜ、一瞬、影がぐわんと形を変えた。


「おいおい誰だって?」

 右衛門がそう言い、タバコを灰皿に擦り付ける。


「まったくその顔、穏やかじゃないね」

 雄吉が天井を見上げ、息を吐く。


「落ち着いて話し合おうじゃないか。そんなに震えなくてもさ」

 暖炉の傍の椅子から立ち上がった友時が探偵に歩み寄る。


「ささ、大先生、こちらに来なよ」

 そして正造が探偵に手を伸ばしたが、探偵はそれを払い除けた。


「何だよ先生、近くで見ると随分震えているじゃないか。大丈夫か?」

 足の震えからか体勢を崩し、カーペットの上に尻もちをついた探偵を見下ろしながら

保太郎がそう言った。


「し、しらばっくれても無駄だ! 犯人はお前しかいないんだ!」


「だからその犯人の名前を言いなよ。ほら、ちゃんとさ。じゃないと誰かわからないだろ」

 伝蔵がニヤリと笑い、手を背中へと回す。


「……いいだろう、ハッキリ言ってやるぞ!

田中右衛門雄吉友時正造保太郎伝蔵長久命の長――うっ!」


 長久命の長介の手に握られたナイフが

探偵の胸の奥まで抉るように深く、入り込んだ。


「……人間ってのは器用な生き物だが

意外とさ、一つの事に集中すると他が疎かになるんだよな。

親が長寿を願って長命だった人たちの名前を肖り、名付けてくれて良かったよ。

こんな風に他の連中と同様

俺の名前を頭の中で考えるうちに殺すことができたんだからな」


 田中右衛門雄吉友時正造保太郎伝蔵長久命の長助はナイフから血を拭き取り

次いで、この屋敷から自分がいた痕跡を消し始めた。

ふと頭によぎった『寿限無』の話を思い起こしながら……。

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