保護区域
地球の人々に見送られ、宇宙に飛び出した宇宙船エヴァーナイン号。
史上初の高性能、長距離型であると太鼓判で背中を押されての出発だったが相次ぐ故障。
しかし苦闘の末、とうとう知的生命体が存在する惑星を発見、着陸した。
「バルババボボブ」
「プッーカアッシュカツドイシン」
「……いたな」
「ええ船長。厚い雲に覆われ、着陸してみるまでは
またレーダーの故障かと半信半疑でしたが、いましたねぇ」
「見たところ原始的な生活をしているようだ。
地球よりも遥かに文明レベルが劣るようだな」
「はい。これならここを植民地にできそうですね」
「ああ、まずはこちらの技術の凄さを見せ、驚き、憧れを持った何人かを
地球まで連れて帰り報告。
そして今度は大船団でふふっ、私がその指揮を執るのだ」
「ええ、ですが気をつけましょうね。槍や弓くらいは持っているようです」
「ああ、問題ないさ。こっちには銃がある。あっちが武器を向けてきたら
地面を、いや、何なら一人くらい見せしめに撃ってもいいかもしれん。
うん、圧倒的な力を見せれば従うほかない。そう、神と思われるかもしれん」
「なるほど。始めが肝心というわけですね」
「そういうことだ。ま、彼らも形はどうあれこれで文明社会の一員となるわけだから
種族としてはむしろプラスだろう。さぁ、やるぞ……」
と、船長が悪い顔をし、一歩踏み出した時だった。
船長と船員の頭上から声がしたのは。
『あー、そこの不法入星者! 動かないように!』
そう言われるまでもなく、船長と船員たちは金縛りにあったように動けなくなった。
巨大な宇宙船。それも自分たちよりも遥かに洗練、技術力が上だと一目でわかるほどだった。
あっという間に捕まった船長と船員たち。
これはどういう事かと船長は恐る恐る自分たちを捕まえた宇宙人に訊ねた。
「ん? ああ、あそこは保護区域なんだ。
長い間不変である彼らの文化を守るため、常にパトロールをしているのさ」
「そ、そういうわけでしたか。ではこの星の他の場所は」
「ああ、我々が暮らす場所は彼らとは違いすぎるほど発展しているよ。
だからこそ、古い文化を残すというのは大事なんだな」
「ええ、素晴らしいお考えです! この宇宙船といい、先程から自然と会話できる事といい
翻訳機でしょうか? いやぁ素晴らしい技術です。地球はまだまだまだ……」
船長は媚びを売り、彼らに取り入ろうと考えた。
しかし、どうしたことか宇宙人たちは急に目の色を変えた。
「え、地球? 君たちは地球から来たのか?」
「え、ええ。まあ」
「そ、そうか。本来なら罪に問われるのだが、帰ってよろしい。
そうだ、地球まで同伴しよう。
なに、遠慮することはない。この辺りにはたまに盗賊船が出るからな」
宇宙人たちの態度の変わりようにエヴァーナイン号の船員一同、首を傾げた。
「船長、こうして船に戻れたのは良かったのですけど一体どういうことでしょう?」
「しぃ、あまり大きな声を出すな。
まだ奴らは後ろにいる。もしかしたら盗聴でもされているかもしれん。
……恐らく地球には彼らが欲しがる資源か何かがあるのだろう。
だから親切にし、我々に取り入ろうと考えたのだ。
まあ、それはそれで好都合だ。
これを機に交流が始まれば我々の旅も無駄にならなかったということになる」
船長と船員たちは声を潜めて笑った。
一方の宇宙船では……。
「いやぁ、まさか地球の連中がここまで来るとはね」
「ええ。ちょっと目を離した隙に、でしたね」
「しかし良かった。こんな事、宇宙惑星連合に知られたら
我々の星が大目玉を食らうところだった」
「保護区域から出てくるなんてまったく身の程しらずというか何というか
で、ウィルスでいいですね?」
「ああ、それでしばらくは宇宙に目を向けている場合じゃないとなるだろう。
いや、念のため電磁パルスも一発やっておこうか。
またしばらくの間、彼らには素晴らしい原始的な生活を送ってもらうことにしよう」




