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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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役立たずの案山子      :約1000文字 :ホラー

 プシッ、と小気味よい音が夜の静寂に溶けた。

 思わず口元が綻び、鼻歌が漏れる。

 人けのない夜道を歩きながら、男は缶ビールを傾けた。一口飲むと喉が鳴った。意識したわけではないが、まるでCMのワンシーンのようだと思い、大げさに息を吐く。

 さらにもう一口喉を潤した、その瞬間だった。


 ――横に誰かいる……!


 ぞくりと背筋が震え、反射的に気配を感じたほうを振り向いた。その勢いで波立つ缶の中のビール。心臓の鼓動とともに徐々に収まっていく。


「……なんだ、ただの案山子か」


 男は安堵の吐息を漏らし、苦笑した。

 畑の中に案山子が立っていた。自分と同じくらいの背丈で、くたびれたジャンパーを着せられている。

 こんなもので鳥避けになるのか、と男は鼻で笑った。しかし、一瞬とはいえ人間と見間違えたのだから、少しは認めざるを得ない。

 改めて周囲を見渡すと、いくつもの案山子が等間隔に並んでいる。まるで品評会のようだ。

 男は審査員気分で歩きながら眺めることにした。


 センスがない。

 地味。

 野暮ったい。

 手抜き。

 動いた。

 ブサイク。

 ……動いた?


 男は足を止め、三歩戻って目を凝らした。その瞬間、奥の案山子がかすかに揺れた。風ではない。蠢くように揺れたのだ。酔いが血の気とともに引いていく。


 ――まさか、人が縛り付けられているのか?


 脳裏に浮かぶのは、手足と舌を切り落とされ、案山子に仕立て上げられた人間の姿。胃の奥から込み上げる嫌な感覚を男は咳払いでごまかした。

 警察に通報しようと考え、ポケットに手を伸ばす。だが、ふと動きを止めた。


 ――いや、そんなことがあり得るのか?


 確認してからでないと、酔っ払いの妄言だと一蹴されかねない。もし、素直に来てもらえたとしても、見間違いだったのでは気まずい雰囲気になりそうだ。

 そう考えた男は、意を決し柵を乗り越えた。

 もしかすると、電池を使った仕掛けなのかもしれない。夜風に冷やされ、幾分か冷静さを取り戻していた。


 案山子の前に立つ。

 白いTシャツを着せられたどこにでもある平凡なもの。間近で見ても、特に異常はない。やはり見間違いだったのだろうか。

 釈然としないまま、男は動いたと思われる胴体部分を撫でた。


「ニャー」


 その瞬間、猫の鳴き声がした。それも間違いなく、案山子の中から。男はビクリと後ずさった。しかしすぐに状況を理解し、肩を揺らして笑った。

 案山子の中に入り込んで、出られなくなってしまったのだろう。

 男は案山子を地面に下ろし、Tシャツを引き裂いた。中には縄に絡まった猫がいた。縄を解くと、猫は勢いよく飛び出し、夜の闇に消えていった。

 男は小さく笑い、安堵のため息とともに呟く。


「ふうー……人じゃなかったな……」


「それも良いな」

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