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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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巧妙化する手口

「――と、いう訳で犯人は貴女です!」


 探偵はそう声を張り上げ、指を差された女はその迫力に思わずたじろいだ。

自分の思った以上の声量に彼自身も戸惑いを感じたが

間髪入れずに探偵は言葉を続ける。


「いいですか! 私はこの雪降る中! この山の上の屋敷の下にある

村の家を一軒一軒聞き込みをして回っていたのです!

貴女の動機を探るためにね! 寒いのにね!

貴女は新人の使用人にもかかわらず、この村のしきたりにやけに詳しかった。

それも知識だけでは補えない、長年、体に染みついた所作だった!

そして、使用人である貴女が元々この村の出身であり

殺された屋敷の主人にかつて虐げられた女性、その娘であることがわかったのです!

あんのぉお込み入ったトリックはあぁ……先程説明した通り!

どうです! まだ言い逃れしますか!?」


「う、うう……アイツが、あの男が悪いのよおおおおお!

私が母の事を問い質したらアイツ、笑ってそれを認めて……それで……」


 泣き崩れた女を刑事の男が部屋の外へ連れて行く。

探偵はそれに背を向け、窓の外を眺めた。と、そこへ探偵の助手が小走りで近づく。


「お疲れさまでした、先生。今回も見事な解決でした。

これ、どうぞ。生姜入りの紅茶です」


「ああ、柊君。ありがとう……・。うん、おかげで温まるよ」


「どうしたんです? 浮かない顔をして」


「いや、まあ、今回も苦労したなぁと……」


「ええ、確かに大変でしたものね。村の家々を訪ねて回るのもそうですけど

山を登ったり下りたり」


「ああ、ほんと、君には苦労をかけるよ。女の子、それもまだ高校生なのに」


「私は別に苦労だなんてそんな……それに今、冬休みですし」


「ああ、そうか……それにしても」


「しても?」


「いや、かなり凝ったトリックと言うか慎重と言うか……。

現場となった屋敷の主の部屋の窓の鍵は一箇所

以前から壊れて掛からなくなっていたという。

だからてっきり外から侵入し、寝ている隙に……と思ったのだけど

あの晩は雪が降らなかったから

降り積もった雪の上に足跡が残っているはずなのにそれがなかった」


「道具を使って消したのでしょう。かなり入念に」


「うん。でもそれだけじゃない。

指紋もここなら残っているはずと思ったところも含めて全て拭き取られていた。

それに凶器だ。刺し傷からいって厨房の包丁を使ったのだと思ったが

それも欠けたり曲がったりせず、綺麗なまま揃っていた。

だからさっきの推理では氷を鋭利に加工して

刺したのだと言ったのだけど、どうもしっくりこなくて」


「でも無事、事件解決。あの人、泣き崩れて認めたじゃないですか。

凄い気迫でしたよ、先生の血走った目。素敵でした」


「まあ、そうなんだけどさ……。

あの人、僕の推理に余り響いていなかったような……。

どちらかと言うと動機、彼女と村の関係を指摘して罪を認めた感じがして……」


「どこか心が疲れていたんでしょう。

先生の素晴らしい推理に反応しないよう、どうにか気を張っていたけど

本当は捕まって楽になりたかった。知ってほしかったんだと思いますよ。

殺したその動機、理由、お母さんの事、その気持ちを」


「なるほど……いや、しかしそれにしてはやはり入念……。

割と衝動的な性格の女性と見ていたんだけどな……」


「複雑なんですよ、女性の心は。捕まりたくないけど知ってほしい」


「うーん? ……それにしても雪のせいもあるけど

事件発生から解決まで四日もかかってしまった。

どうも最近事件の複雑化が……うーん……」



 納得がいかないというように悩み、唸る探偵。

 それを見つめる助手の女、柊。

外の雪のような彼女の白い肌は次第に赤みが増していく。


 悩む先生……素敵。

 ……でもまだまだですね。

 私が犯人の残した証拠を隠滅して回っていることに未だに気づかないなんて。

まったく、あの女が外に適当に捨てた包丁を見つけ、回収するのは苦労しました。

寝ているところを狙うほうが確実とは考えたんでしょうけど雪の足跡といい、杜撰な女。

でも先生と長く一緒にいるためなら苦ではないのです。


 嗚呼、先生。早く気づいてくださいね。

 

 私の恋心に……。

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