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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ハッピーバースデイ

 たくさんの星。宇宙船。惑星の地表に立つ、笑顔の宇宙人の壁紙の子供部屋。

夜中、そこで一人の少年がパッと目を開けた。


「ママ、ママ!」


「あららら、どうしたの? 私の可愛い坊やったら」


「もう『坊や』だなんて……ぼく、もうすぐ八歳なのに」


「ふふふ、そうね、明日が誕生日。でも、怖い夢を見てママを呼ぶくらいだから

まだ坊やと呼んでもいいんじゃないかしら?」


 母親がそう言うと少年はウッとたじろいだ。


「お見通しなんだね……」


「当然よ。あなたのママですもの。それで、大丈夫? どんな夢を見たの?」


「うん……ぼくが……殺されちゃう夢」


「まぁ……それは恐ろしいわね」


 母親がギュッと少年を抱きしめた。

少年はパンパンの風船が萎むように心が和らぐのを感じながら話を続けた。


「黒い、影みたいな人が、ぼくがベッドの上で眠っているところを……。

だ、だからぼくはそのまま死んじゃって……で、でも……」


「でも?」


「それをぼくが見ているの」


「それって……幽霊になってってこと?」


「わかんない。でもすっごく怖かったんだ」


「大丈夫。もう寝なさい。何かあってもまたママが……そう、ママが守ってあげるからね」


「うん、ありがとう……」


「ふふっ、そんな顔しないの。何か楽しいことを考えながら眠ればいいわ。

ほら、覚えている? 一緒に水族館行った時の事、イルカを見に行ったよね」


「もちろんだよ! イルカさんに触るのママ、怖がってたよねぇ」


「あ、そうだっけ? ふふふっ。あとはそうね、遊園地!」


「うん行ったね。ママってばアイスを落としてほとんど食べられなかったんだよね」


「ああー、あったわね。ふふ、すごいわね去年? 

一昨年だったかしら? よく覚えているね」


「とーぜん! 楽しかったもん!」


「ふふふっ……と、このくらいにしておきましょう。

楽しすぎても眠れなくちゃっちゃうものね。明日はお誕生日会よ!

さ、だからおやすみなさい。いい夢見てね」


「うん! おやすみなさい、ママ」


 少年は再び眠りについた。

できるだけ楽しい夢を見ようと明日の誕生会のことを想像しながら。



 少年が次に目を覚ましたのは夜明け前。まだ家族は寝ているはずだ。

 だから少年は驚いた。目の前の存在。その黒い影に。

 少年は目を見開き、息を呑む。そして、叫び出そうとした。

だがそれより早く伸びた手が少年の口を塞ぐ。そして


「しーっ」


「あ、あ、パパ?」


「そうだよ。驚かせちゃったね」


「どうしたの?」


「ママが起きる前にしなければいけないことがあってね。大丈夫すぐ済むからね」


「それって、おまじないか何か?」


「うーん、まあそうだね。私たちがまた一年、何事もなく過ごせるようにってね」


「じゃあ、大事なことなんだね」


「そう、とってもね。だから大人しくしててね。そう、上を向いて」


 少年は父親の言葉に素直に従い、天井を見上げた。

糸で吊るされている宇宙船の模型が少年の好奇心をより搔き立てる。


 おまじないって何するんだろう? 

 ぼくも大人になったら自分の子供にしてあげたいな。

 大きくなったら教えてくれるかな?

 痛いのだったら嫌だな。

 それはないか。だって去年もしたと思うし痛かったらきっと飛び起きていたはずだもの。


 そう、ぼくが眠っている間に……。


 少年はビクッと足先まで体が硬直した。頭の中であの悪夢の内容が蘇ったのだ。


 ……そこにいるのは本当にぼくのパパ?


 怪物が父親のふりをしているのではないか?

 そんな考えが頭によぎった少年は

すぐにでも飛び起きてこの場から逃げ出したかったが、なぜか体が動かない。

 少年は夢か何かの間違いであって欲しい、と

その正体を見極めようと目だけを必死に動かした。


 すると見えた。

 もう一つ。

 父親の陰に何かが。

 小さい。

 あれは……


 ぼく?


 少年はそう声に出そうとしたが、言葉は頭の中で留まるばかりで

咳の一つも出なかった。


 あの子は誰?

 幽霊?

 宇宙人?

 まさか、パパはあれに操られて?

 ぼくに何をしたの?


 ぼくは……殺されちゃうの? それであの子がぼくに成り代わるの?

なんで? 誕生日に……あれ? でもそれって……。


 

 父親は意識をなくした少年をベッドから降ろすと、もう一人の少年をベッドに寝かせた。


「……当たり前だが毎年重たくなるな」


 父親はそう言うと力なく笑った。


 ……あとは今抜いたこのメモリーを入れるだけだ。

直前のは引き継がれないから心配いらない。

当人からしたらただ寝て、一晩経っただけだ。

 当人……人か。ああ、本当によくできている……そっくりだ。

 オーダーメイドの特別仕様のロボット。値は張るが仕方がない。

おかげで妻は息子を目の前で失った悲しみから立ち直ることができた。

……向き合ったとは言えないがな。

 だが何年でも続けよう。背が伸びなくなる歳になるまではこうやって毎年……。


 「ハッピーバースデイ……一年間よろしくな」

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