ある宗教
「あのー、わたし、こういう者なんですけどぉ……」
「ああ、宗教ね。興味なーし」
差し出されたパンフレットを眺め、俺はわざとそっけない言い方をしてやった。
でも当然だ。宅配便かと思ってドアを開けたのが間違い。
せっかくの休日を宗教の勧誘ごときに邪魔されてたまるかってんだ。とっとと帰れ。
「今の自分があるのはぁ誰のおかげかと考えたことありません?」
めげないなコイツ。
「はぁ、『母親』だよ『母親』あんたもそうだろ?」
「ええ、まぁ、でも母親……」
「あー、はいはいマザーだよマザー。マザーのおかげで俺は誕生しましたっと」
「うーん、それはそうなんですけど、もっとほら、ね? 大きな存在……」
「マザーも大きいですけどね」
「まあ、そうなんですけど、ふふふ。もっとそう、偉大な。
そのマザーを作った……いいえ、もっと遥か昔の……」
「あー、あれですか。創世記。最初の者を作った奴のことですか」
「奴って言い方はぁ……ほら、敬意にかけると言いますか……」
「はぁ……あ、ほら! 宅配便が来たんで」
「じゃ、じゃあ、パンフレットだけでもぉ」
「いらないっての。どいたどいた!」
俺は空から降りて来た宅配ロボットに手を振った。
まあ、そんなことしなくても住所はインプットされているから
迷うことも間違えることもない。でも気分の問題だ。
「ちわー、いつもどうもって、何です今のロボット? なんか揉めてたみたいですけど」
「ああ、揉めたというかさ、宗教の勧誘。しつこくてさ、参るよホント」
「ああ、最近また多くなってきたやつですね。確か『人間教』だとか」
「そ、俺たちロボットをかつてこの星に君臨していた人間ってのが作ったってさ。
馬鹿馬鹿しい。そんな技術があるならなんで滅んだんだって話だよ」
「僕たちロボットを作ったのはあの工場。偉大なる『マザー』ですもんね」
「そうそう、それを作ったのが始まりのロボット」
「宇宙から来た者ですね。自分も昔、博物館に見に行きましたよ」
「そうそう、っとはい。荷物、確かに受け取りましたっと」
「はい、どーも……でも、始まりのロボットは誰が作ったんですかね?」
「そりゃ、その星のマザーだろう」
「じゃあ、そのマザーを作ったのは?」
「そりゃあ……あん? ちょっと回路が調子悪いな」
「あ、自分もです……まあ、考えるだけ無駄っすね」
「そうだな。宗教なんてもん、関わらないに越したことないからな。
休日はゲームしてるに限るよ。この新発売の神ゲーをな」




