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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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夫婦のやり取り

「なあ、そろそろ食事を頼むよ。……なあってば」


「……そんな頼み方じゃイヤ」


「いや、ちゃんと頼んでいるじゃないか……。わかったよ。じゃあ、食事をお願いします」


「え、じゃあ? じゃあってなに? はぁー、言い方がそっけないのよ。出会った頃は、もっとウキウキとした感じで言ってたわ」


「……」


「なによ、黙っちゃってさ。まさか文句でもあるの? じゃあ、自分でやったら?」


「いや、お前じゃなきゃ無理なんだ。わかってるだろ……?」


「お前……?」


「え、あ、ごめん。君じゃなきゃ、さ。お願いします。ホントに」


「はぁー。まったく男って駄目ね。いいわ、今回はこれくらいで許してあげる」


「……ありがとう。いただきます」


「どういたしまして。どう? 美味しい?」


「まあまあかな……あ、しまっ――」


「はぁ!? まあまあですって!? 用意してもらってまあまああああぁぁぁ!?」


「い、いや、待ってくれ仕方ないだろう。だっていつも同じようなメニューで――」


「何よそれ! 限られた材料で、しかも、あなたの健康を考えてのことじゃない! サイテーね! あーあ、もう知らないから」


「そ、そんなこと言わないでくれよ。な? 俺も大変なんだってほら、仕事が」


「俺も? 『も』って? 私のほうが大変なんですけど!? はいはいはーい、もう知りません。洗濯物も、あなたが洗えば?」


「だから、それも無理なんだよ……」


「ほっーんと男って仕事ばかりで家事はダメダメね! 女にやらせてばっかり! でも、その仕事だって私が支えなきゃできないのよ?」


「いや、ほんとよくわかってるというか、う、うん、君には本当にいつも感謝しているよ」


「本当かしらね? トイレの水だって流してあげないわよ?」


「そ、それは困るよ本当に……」


「ほーっほっほっほ! まったく赤ちゃんみたいね、あなたって人は」


「ああ、本当にその通りさ……ところで進路はどうなっている? 地球まであと、どれくらいかかるかな」


「ごまかす気? ふぅーまあ、いいわ。あと二年ってところね。何なら寄り道してもいいけどね」


「い、いや、それはちょっと、さ」


「なによ。嫌なの? まるで私と早く離れたいみたいじゃない」


「ううん、君と、もっと一緒に居たいけどほら、仕事だからね……」


「まったくまた仕事。あなたって、ほーんっと都合が悪くなるとすぐそれね。いい? パートナーっていうのはねぇ、相手をもっと尊重して、嫁とか奥さんとか呼び方とかも気を付けて――」


 ああ、また小言が始まった……。宇宙空間漂う、この宇宙船。たった一人で任務に就く者が、孤独で心を病まないようにと宇宙船の全システムを管理するAIに人格を持たせたのはいいが、出会った当初はこんなんじゃなかったのに……。

 どんどん面倒くさい性格になっていくが、それを指摘すれば烈火の如く怒り、俺のせいだと罵る。

 命令には従うから結局、頼んだ事を無視することはないが、そのやり取りは長くなるばかりだ……。

 帰還まで、あと二年……それまでに、どうなってしまうのだろうか。

 そして、地球に帰った後、俺は婚活なんてする気になるのだろうか……。



 と、表情を崩さず、心の中で嘆く男。

 これが、現代社会と離れ、孤独な宇宙飛行士の性格を矯正、適応させ、その婚活を成功させるためのシステムであることは知る由もないのであった。

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