先生
とある小学校の教室。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、どこか緩んだ雰囲気。
が、一つ結びの黒髪、黒いスーツの女教師の顔は
警護中のSPのように凛として鋭い眼光のままだ。
そこに一人の少年が歩み寄る。
「あ、お母さん――じゃなかった先生、この宿題って」
少年は慌てて言い直すも時すでに遅し
教室は笑いに包まれ、少年は耳まで真っ赤になった。
「はいはい、質問はなにかなー?」
女教師は顔を綻ばせ、少年の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「もー」と少年は嫌がるように首と体をくねらせたが満更でもない様子だ。
そして放課後。黒髪は夕日色と混じり合い
女教師は靴音を響かせ、校門に向かって歩いていた。
その時であった。あと数歩、というところで門の陰から少女が飛び出した。
少女がしかめっ面なのは夕日が眩しいからではなさそうだ。
「……なんでお母さんて言われて笑ってたの?」
「……『笑ってたんですか』でしょう? 先生には敬語を使いなさい」
女教師は少女を見下ろしながらそう言った。
少女の顔は更にギュッとなり、女教師に背を向けた。
そして、そのまま駆け出していく。
「待ちなさい!」
女教師はそう言うと同時に少女の腕を掴んだ。
そしてスルスルとその手を少女の腕から手へと移動させ、ギュッと握った。
――つい、あなたの顔が浮かんだのよ。
そう声には出さなかった。むくれた顔で見上げた少女に優しい微笑みで返す。
「私のお母さんなのに……」
少女はそう呟きながらまだ不機嫌そうに腕をブラブラさせたが
手を放そうとはしなかった。
――母親と先生の両立は中々大変ね。
手をつなぐ伸びた二つの人影は次第にその距離が縮まっていった。




