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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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秘密の箱

 とある国の工事現場。掘り返した木の根っこのさらにその下にその箱はあった。

 発見後、現場作業員によって丁寧に掘り出され、その全貌が明らかになる。

膝を折れば人ひとり入れそうな大きさ。重さは持ち上げるのに男ふたり必要な程度。

そして、その箱に彫られた奇妙な文様と装飾からして、誰もが思った。

 

 これは宝箱。それも古代の。

 

 と、なると中身は金銀財宝。

その場にいた者は小踊り、取り分の事で掴み合いの喧嘩を経て

一先ず開けてみようという結論に至る。


 が、しかし開かない。シャベルの切っ先を箱の蓋の部分に入れるもビクともしない。

鋸、鎌。数人がかりの単純な腕力。いかにしても箱は開かなかった。

 材質は石のように見えるのだが硬すぎて削れもしないので

杭を打ち込み、穴を開けて中を取り出すこともできなかった。

 そのうち政府の役人が来て、重要文化財だと言って箱を持って行った。


 さあ、いよいよご対面。……とはならなかった。やはり箱は開かなかった。

工事現場の屈強な男たちも半ば音を上げていたのだ、そう簡単にはいかない。

 おまけに箱そのものにも歴史的価値がある。

滅茶苦茶に破壊するわけにもいかない。

国の考古学者が入念に調べたがスイッチらしきものや仕掛けもなさそうだ。

 噂が広まり、見せろ見せろと国民の声に押され

箱は一先ず、小さな博物館に展示されることになった。

 が、それも長くは続かなかった。

夜な夜な、警備員が箱の中から音がしたと震えながら館長に訴えたのだ。

更に少し動いたとも。

 見物人の中からもその音を聴いたという声がチラホラ出始め、みな、不気味がった。

元々、迷信深い国民性なのだ。自然とある説が浮上する。

 

 呪いの箱。


 あれはまさに開けてはならないパンドラの箱では?


 恐怖は伝染病のように広がり

結局、箱は国のお偉方の命令により、地中深くに埋められることとなった。

 噂を聞いた他国が買い取りたいと申し出てはいたが

売ったは良いもののそれでいざ開け、中身が財宝だったとなったら目も当てられない。

世界各国から馬鹿にされるのがオチだ。

 大人しく箱を埋め、フェンスで囲い、何重にも有刺鉄線を張り、警備員もつけた。

いずれまた……と。



 そして月日が流れ、いよいよ再挑戦しようという運びになった。

久々に掘り起こされた箱。

人間ならまだ瞼を擦る段階、すぐさまチェーンソーの刃が揺り起こしにかかる。

 が、開かない。ならばドリルはどうだ、とそれも弾かれるばかり。

 やはり、魔術の類が箱にかけられているのか……。

 現場に居合わせた者は身震いし

『ちょ、ちょっと時期尚早だったらしい……埋めようか』

と誰が言い出したわけでもなく、自然とそういった雰囲気になり、また箱は埋められた。



 さらに年月が過ぎ去り、三度目の挑戦。

 今度はレーザー兵器を持ち出しジジジと箱と蓋の間に当てた。


「……一旦、作業をやめろ」


 流石に今回は開くだろうとその場に居合わせた誰もが思ったのだが

同じく見守っていた国の指導者の一声で作業は中断された。


「閣下。どうされたのです? 国民の、先祖代々の悲願ですよ。

ほら、見てください。効果アリです。このまま続ければ――」


「箱は開く、か」


「ええ、もちろん……閣下?」


「……箱を発見した時代。我が国は貧しく、政治は不安定。

教養もなく他国からはまるで人よりも猿の亜種のようだと言われるほど蔑まれていた。

それがどうだ? あの箱を発見したという話が広まった途端

隣国を始め、世界が我々に注目した。二回目に掘り返した時、更にだ。

応援する声。開かないからと言って他国に売り渡してはならないという熱い意見。

皆、箱の中身と我が国の動向、発展に注目し、協力さえしてくれた」


「ええ、お陰で今や世界経済に食い込み

世界のどの国も我が国を無視、嘲ることができないほど発展しましたが……」


「そう、それもあの箱のおかげだ。呪いだ何だと理由をつけ

酸っぱいブドウよろしくあの箱を遠ざけてはいたが

皆、中身を知りたい、開けたいがために技術の研鑽を怠らなかった。

しかし、ここで箱を開けたらどうなる?

我々の熱意も蓋を開けたように体から、ひいては国から出ていかないか?

そうなればまた怠惰で粗暴な国に逆戻りしないか?」


「……確かに、箱のために一丸となっていた節はありますが」


「そうだろう。だから埋めるのだ。今回も駄目だったことにしてな。

そしてまた百年後にでも掘り返すよう伝言を残すのだ」



 こうして箱は再び埋められた。新たな秘密と共に地中深くに。

 いずれ箱を開けようとする者が現れるかもしれない。

その時、その先にあるのが滅びではないことを国の指導者は心から願った。

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