表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

453/705

人生最高の夢を

「フゥー!」


 天井を見上げ、男は大きく息を吐いた。

葉巻の煙は上がるにつれ薄くなり、そこから美しい裸婦や天使の絵が姿を現す。

天井画だ。学がないので男はそれが誰の何の作品かはわからぬが

やたら金がかかっただろうなと思う。

 しかし、そんなことはどうでもいい。いかに美しかろうが所詮は絵だ。

このジャグジーも最高の心地良さだが何より素晴らしいのは


「どうしたの? よそ見なんかして」

「ねーえ、私を見てぇ」

「ちょっと、そろそろ隣替わってよ」

「そうよ、ご主人様の隣は順番でしょっ」


 裸の美女たちの言い争い。男はそれを見てほくそ笑む。

タイルの床に並べられた御馳走の数々。

湯船につかったまま手を伸ばし、その中の一つ。

アイスに指で触れると、体温でジワリと溶けた。

 それを女たちに投げつけるとはしゃいだ声で、笑顔と豊満な体が揺れ動く。


「最高の気分だ……まるで」



 夢だった。


 目覚めた男はハッと辺りを見回す。

すぐそばには白衣を着た痩せ細った老人がいた。


「どうかね、良い夢は見られたかね」


「え、あ、は、はい」


「大した効果だろう。実際はほんの数分だが君にはおよそ一時間だったはずだ」


「は、はい。確かに……あ、あ、あ! あの、もう一度、もう一度だけ、お願いします!

夢を、やめろ! はなせ! 夢を! そうだ、夢を見たままで! 頼む! 夢! 夢を!」


 両脇を抱えられ、引き摺られるように廊下を連れて行かれる男。

遠ざかっていく懇願の叫び。うんうんと頷き、博士は微笑みながら見つめる。

 そして角を曲がり、男の姿が見えなくなると周囲の人間の方に振り返り、言った。


「さ、どうですみなさん。薬とそれに頭に取り付けるこの装置は

操作が至ってシンプル。どこでもすぐ配備できますよ」


「……最後の晩餐ならぬ最後の夢。それはわかったが、ああも取り乱すとは……」


「そうでしょうとも。大金を手に入れた夢を見た朝。

あるのは喜びですか? 落胆ですか?

良い罰でしょう。近頃やたら人権団体がうるさいですからな。

牛や豚に苦痛や恐怖を与えるなと言うのと同じように。

ええ、良いカーテンになりますとも。

恐怖の緩和。囚人はぼんやり夢心地のまま死刑台に向かって歩くとね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ