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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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偽装

「ちわー近くで工事をやっている者なんですけどー。

お宅の屋根、今見たらボロボロで修理とか――」


「……アナタ、見守られてるって感じたことありませんか?」


「はい?」


「神様が常にそばにいてくださる……素敵ですよね。

それを感じ取れたらもっともっと幸せになれるって思いませんか?

今度、教会の方で――」


「あー、しっつれいしまーす!」


 突然、家に訪ねてきた若い男。その慌ただしく去っていく背中を見て

家主の男はホッと一息ついた。


 ……仕事のため、よく知らない土地に引っ越してきたが

まさかホームシックにかかるとは。

そのせいか、ああいったセールスなどの悪徳訪問業者を断るのにいつも苦労する。

話の間に中々「結構ですから」の一言が出ない。

この地域に全く馴染めないし、自分が嫌になる……。

 と、落ち込んでいたがふふふ。この方法を編み出してからというもの負けなしだ。

 まあ、そもそも予定に無い訪問者には応対しなければ

済む話ではあるのだけれど中々そうも……。


「あの」


 と、しまった。さっさとドアを閉めておくべきだった。

今度は中年の女性。なんだ、この雰囲気は……まさか……。


「神様の声を……聞きたいと思ったことはありませんか?」


「あ、う……」


 本物が来た。なんてタイミングだ……。

 どうする? 違う宗派を名乗ればいいか? いや、むしろ食いつかれるかも。


「こちらの聖書。あなたのお役に立てると思います。

今度、会がありまして、そこで――」


「なんや、ワレェ。會? どこの組のもんや」


「……はい?」


「ワシはのう! あー、佐藤會の者や!」


「あー……それでは私、この辺で……」


「おう、なんや。逃げるんかいワレェ!」


 男が放った破れかぶれの嘘。だが意外にも功を奏した。


 ……ふー。聞き返されたときは駄目かと思ったが上手く行った。

以前、ヤクザ映画を見ておいて良かった。

 しかし案外、楽しいものだ。大きな声を出すというのは気分がいい。

今後もこの手を使おう。

 男はそう思い、ドアを閉めるとくくくと笑った。


 それから数日が経ったある日。インターホンが鳴ったので男はドアを開けた。


「お、よう、兄ちゃん。この部屋にヤクザ者が住んでいるって

聞いたんだけどよぉ……お前か?」


「あ、う……」


「イエスってことだな? 知らない顔だがこの辺りはうちの縄張りで――」


「わ、私は革命軍の戦士である! むむ! 貴殿! 中々の強者と見える!

今、ちょうど中で仲間たちと火炎瓶を作っているところだ!

どうだ! 一緒にこの国で革命を起こし、政府を転覆させ――」


「あ、ああ、スマンな。勘違いだったみたいだ。じゃあな」


 男はドアを閉め、ゆっくりとその場に座り込んだ。


 ……どうにか危機を乗り越えた。まさか、話が広がっていたとは。

最近、いい気になってあの手でセールスを追い返していたからかもしれない。

目立ちすぎだ。このままでは色々と支障が出る。

しばらくは控えた方がよさそうだな。いい虫除けになると思ったんだが……。


 ――ドンドン!


 と、考え込んでいたところ、突然のノックの音に驚き

男はほわっ! っと声を上げて立ち上がった。


 声を聞かれた以上、居留守は無理だ。また妙な奴が来たのではないといいが……。

開けた途端『同志よ!』なんてことも……。

 だが、開けないわけには行かない。

いずれ仕事関係の大事な客が来るはずなのだ。今回こそ、それかもしれない。

もしまた違えば今度は頭のおかしい奴の振りをするか、それとも別の……

ああ、もう正直に言ってしまいたい……おかしくなりそうだ。

そもそも俺には嘘なんて向いていなかったんだ!



「……はい、どちらさまでしょうか」


「あ、どうも。公安警察の者ですが」


「え」


「いや、ね。このアパートの近所の人から通報がありましてね。

なんでも物騒なことを計画している人がいるとかで

急いで駆けつけてきたんですがねぇ」


「あ、あ……」


「中を見ても?」


「わ、私……」


「はい?」


「わ、私は……し、CIA捜査官なんです……」

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