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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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透明な血

 ある朝、俺はひどく目覚めが悪かった。

 悪夢を見たせいだと思うが覚えていない。まあ、夢なんてそんなものだ。

ただ、寝巻が肌に張り付いていた。かなり汗をかいたのだろう。

これは相当な悪夢……と、思ったところで俺はびっくり仰天。ベッドから雪崩落ちた。

 立ち上がって、掛け布団を剥ぎ取り、見下ろすとやっぱりだ。

白いシーツが真っ赤に染まっていた。


 寝ている間に何者かに刺された。だが、この量、生きていられるはずがない。

そして、今、痛みを感じない。と、いうことはつまり俺は死んで……。

幽霊……いや、ゾンビ……違う。生きている。

皮膚をつねれば痛みを感じた。

しかし、その一方で刺されたにしてはやはりどこも痛くはない。

 

 じゃあこの血は? 血尿、つまりおねしょ……いやいやバカな。

血が染みこんでいるのは背中の部分だ。寝汗のように……汗?


 信じがたいが怪奇現象よりはあり得る話だ。まあ、ある意味怪奇も怪奇だが。

俺は仕事の帰りにでも病院に行こうと思ったが、外に出てみて考えが変わった。

 俺以外のやつにもこの現象が起きていたのだ。

 汗っかきなデブの額に浮かぶ赤い汗。

『違うんですよ、これ血じゃないんです。汗なんです。僕にも何が何やら』

って面して歩いていた。そして、そいつだけじゃない。

道を歩く連中、どことなく顔や服がスイカの汁をかけられたように薄っすらと赤い。

これは恐らく、全人類に起きた現象だ。なんてことだ。

 

 と、初めこそは動揺が走りテレビやネットが大騒ぎしていたが

生理を経験する女にとっては左程、驚くものではないらしく

次第に皆、赤色に慣れていった。

中にはちゃんと血が通っている、生きていると実感できると前向きな者までいた。

 医師共の発表では健康上の問題はないとのこと。

目立たぬよう赤い服が流行ったくらいで、大した変化は起きていないように見えた。

 街中を歩きながら見渡すとわかる。今では誰も彼も血塗れだ。


 赤、赤、赤。

 

 火事だ、危険だって真っ赤な照明に切り替わっても何とも思わずに

逃げ遅れて大勢死んだ。

信号無視が増え、事故が頻発した。


 赤いランプ。赤信号。

本来危険を、死を知らせてくれるはずが見慣れてその意味が希薄になった。

 

 人類皆不感症。


 だからだろうな。


 パトカーが迫ってきているのに逃げる気が起きないのも

俺がこいつを殴り殺しちまったのも。

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