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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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代行にお任せあれ

 ――あの女性だな。


 昼の街中、男は大きな木のそばで一人佇む女性を見つけ、近寄った。


「あの、リサさんですよね?」


「はい? まあ、でも」


「私、この度は貴女の恋人であられるケンゴさんの代理の者です。

いやー、まさかこんなに美しい女性だとは!

本当に愚かな選択と言いますかいやはや

おっと、依頼主の悪口なんてこれはいけない。

しかし! それも仕方のないことかもしれません あなたの美しさがそうさせたのです!

そう、貴女ほどの女性にケンゴさんなんて男、釣り合わない! 別れて当然なのです!」


「え、別れる?」


「そう、申し遅れました私、縁切り代行業者のミヤシタと申します。

主に恋人関係の解消に関しての担当でして、いや! お気持ちはわかります!

自分の口からハッキリ言うべきだと!

しかし! ……いえ『しかし』など言い訳染みたこと

貴女様のお耳に入れるのは心苦しい、お怒りはごもっとも!

ですが! ケンゴさんが代行業者に頼んだのは

貴女の美しさを目の当たりにしては決心が揺らいでしまうとの考え!

そう、自分は相応しくないと、そのような弱気な理由で貴女と別れたいと。

全く愚か! ええ、愚かすぎます! しかし、その愚かなケンゴさんが導き出した結論は

そう頭ごなしに否定できるものではないと私は思います!

貴女に幸せになってほしい! たとえそれが自分以外の男とではな! く! て! も!」


「あの」


「ええ、確かにそれでも一度は顔を見せるべきだとお思いでしょう!

『代行業者を通すなんて』と。ですが会えば躊躇ってしまう!

ケンゴさんはもう、よりいい男になるための修練を始めたのです!

それもこれも全て貴女に相応しい……いえ、やめましょう!

貴女のこれからの素晴らしい出会いに水を差すなど……。

そう、ケンゴさんのことなどスッパリ記憶から消すべきなのです!

先程、私はケンゴさんはいい男になるための修練を始めたといいました。

つまりそれは蝶! 羽化! を目指すということ!

しかし、裏を返せば今は幼虫! ほら、御覧なさいこの芋虫の写真を!

どうです! 気持ち悪いでしょう!

こいつらはケンゴさんであり、ケンゴさんはこいつら芋虫! 一心同体なのです!

ほーら、毛虫の写真もありますよ、うええ嫌ですね記憶から消したいでしょう!

さあ、忘れましょう! 芋虫なんか! ケンゴさんなんか!

そして貴女は羽ばたくので――」


「あの!」


「はぁはぁはぁ、はい?」


「いや、気分良くなってるところ悪いんだけど、これ」


「名刺? ……代行業者、え? 貴女も?」


「そ、リサさんの代理人ね。彼女、もう新しい男と付き合いだしたんだけどさ

うだうだごねられたり、貰ったプレゼントとかは気に入っているし

売ったりしたから返せって言われるの嫌でそれで代行を頼んだの」


「あー、そーなの。うちももう新しい女と付き合いだしたって」


「ああ、やっぱり。それにしてもアンタ、だいぶ捲し立ててきたよね。いつもそうなの?」


「ん、まあ、勢いが大事かなと……」


「あー、こっちと真逆だわ。うちは話を聞いてあげるの。

もう話すことがなくなるまでね。だからつい、訂正が遅れちゃった。ごめんね」


「いやーうん、まあ、いいよ。それで――」


「ああ。無事、別れ話は成立ってことで、じゃ」


「ああ、はい……あ、それでさ……君が美しいっていうのは嘘じゃないというかさ。

この後さ、良ければ一緒に……あ、もうあんな遠くに。足速いな。

はぁ……告白代行とかないかなぁ」

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