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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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運露丸

 車が三回転するほどの交通事故。

 しかし、搭乗者は全員無事。軽いケガで済んだ。

 神様のおかげ。


 土砂崩れ。自分の家だけ飲み込まれずに済んだ。

 神様のおかげ。


 高校時代、思いを寄せていた人物と街で再会。意気投合。そして結婚。

 神様のおかげ。


 これらは世の中によく転がっている話。

そのどれもこれもただ単に運が良かっただけだ。

 しかし、その運は神のもの。神の手柄。神に感謝。

 

 もう、うんざりだ。このままにしておけるか。


 ある時、そう義憤に駆られたとある金持ちが財産をはたいて『運』についての研究を始めた。

 運がいいとされる人物を募集し検査検査の日々。

目立った成果を上げられないと、やがて伝承や魔術まで手を伸ばし始めた。


 そして、ある話を聞いた。

 とある国。その密林の奥に咲く花。それが運を引き寄せると。

 金持ちの男はすぐに現地へ飛んだ。

 そして苦難の末、見つけた。その花の群生地を。

 おお、神よ……と呟きかけたところでハッと口を手で塞ぎ、咳ばらいを一つ。

 花を全て持ち帰り、再び研究漬けに。そして長い月日をかけ、とうとう完成させた。

 

『運露丸』


 そう名付けられたその丸薬を飲むとたちまち運が良くなるのだ。

 何を馬鹿なと思うなかれ、競馬などギャンブルはめっぽう強い。

行列に並び、自ら選んだスクラッチくじを買えば、さすがに一等はないにしても当選は確実。

 トランプ。ジャンケンなど、運が絡む単純なゲームも負けなし。

 さらに、丸薬を飲んだ後、夜行バスにて帰郷しようとした若い女が

乗る予定のバスを目の前にし、ふと思い立ち、取り止め、見送った結果

そのバスが事故に遭ったという件もあった。

 

 まさに神ではなく、運露丸のおかげ。

金を費やし、周りから気が狂ったなどと噂されていた『元』金持ちのその男は

この丸薬の発売を機に一気に財と名声を取り戻した。

 キャッチフレーズは


『もう神のおかげとは言わせない。神の正体、むき出しの運をあなたに』


 まだ量産体制が整っておらず、少数かつ高額の販売だが予約殺到。

賄賂や色仕掛けまでしてくる始末だ。

 脳を刺激し、人間の集中力、直観力を上げているのでは?

 スポーツ選手が服用したらドーピングにあたるのでは?

 危険、怪しい、インチキなどとあれこれ議論されたが、どれもこれも良い宣伝だった。


 男は満足していた。金の話じゃない。

元々全てを投げ打ってでも神のやつを失墜させてやろうと考えていたのだ。

人々を目覚めさせた、使命を果たしたというその喜びが大きかったのだ。

 

 が、ある日、運露丸に関するこんな説が取り沙汰された。

 

 周囲の人間の運を吸っているのでは? と。

 

 その説を打ち上げたテレビ番組の検証の結果

確かに運露丸を服用した人間は運気が上がり、良いことが起きているようだが

その身の回りの人間。家族、友人、近所の者は良くないことが起きている。

 ただの嫉妬、やっかみ、ネガティブキャンペーン。

男はそれに対し、そう笑ったが、しかし、それを抜きに単純に考えてみても

パイの数は限られているというもの。

独り占めすれば他の人間が食べられないのは当然の結果。

 くじ、チケットの当選、ゲームの勝者。運露丸を口にした者ばかりが独占してしまう。

 次第に運露丸は、特に買えない者たちから疎まれ、憎まれていった。

 嘘、インチキ、まやかしなど根も葉もない噂

そして男に関するデマも流れ、やがて脅迫。誹謗中傷。

男は頭部のない怪物に追いかけ回される夢を見た。


 それでも男はそういった批判に抗ったが、やがて運露丸は発売停止に。

 

 神など信じている癖に何がインチキ、出鱈目だ。

運露丸は確かにこうして存在しているではないか。

 私は神に、宗教に家族を、人生を狂わされた。神などいない。いてたまるか。

 男はそう嘆いた。そして月日は流れ……。




「それじゃあ、大先生。どうぞ、一つよろしく」


「任せなさい。これであなた方は次の選挙当選確実ですよ」


「ははあ! ありがとうございます!」



 それでも、自分だけは……と思うのが人間。

運露丸をこっそり買い求める者が数多くいたのだ。

 

 男は今や教祖と呼ばれ、嘘か真か運を動かし続けるのだった。

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