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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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434/705

風と共に吹き抜けた悲鳴は全てを奪い去り

「チッ、チッ。おい、彼女まだなの? チッ」


 舌打ち交じりにディレクターがスタッフに訊ねる。

 スタッフは「まだです」と申し訳なさそうに言う。

もう何度もしたやり取り。

 今朝は台風が近づいているその影響からひどい天気になっていた。

蒸し暑く、湿気に満ちている。

指に付けた水滴をパッパッと顔にかけられるようにパラつく雨。

風は不規則に、ただし強く吹いている。

 そして、お天気キャスターの遅刻。

それがディレクターの神経を逆撫でしていた。


「……あ! 来ました!」


「ああ、やっとか! カメラを回せ! 中継まで時間が……なに考えてんだあいつ!」


 現場に遅れてやってきたお天気キャスターは

何故か丈が短いワンピースを着ていた。風で捲れ上がれば放送事故。

 勿論、喜ぶ視聴者もいるだろうが

数日前、この台風で少なくはない犠牲者が出た上に

今も他県では川の氾濫、土砂崩れの影響による避難民がいる。

 そんな中、普段のちょっと風の強い日ならともかく

緊迫と不安、イライラが募っているこの状況下で

ふざけた格好で中継なんてしたら視聴者からのクレーム、ひいては上からのお叱りを受けてしまう。


「クソッ、まあいい。時間がない。カメラを回せ!」

「は、はい!」

「スタジオと中継五秒前でーす! 四、三、二、一……」


「はーい! こちら放送局近くの広場です! 風が強くなってきました!

普段は賑わうこの広場も御覧の通り、誰もいません。

ただもしかしたら死角となる場所がいくつかあるので

そこでセックスしているカップルもいるかもしれませんね!

野外ですと男性は興奮するんですかね? もう何発もヤってるでしょうね!

ご覧になりたい方、ヤってみたい方は夜に来た方が確実ですね!

ただしバックで攻めるのはいいですけど

肛門を指でグリグリするのはやめたほうがいいですね! 痛いんで!

後、すぐに果てる上、下手糞なくせにカッコつけるのは止めた方が良いですね!

最中の際、良いだろ? 良いだろ? って聞いて来るのもやめて欲しいです!」


 現場もスタジオも絶句であった。

その中、ディレクターがハッと我に返ったように言った。


「あのバカ女! 何考えてんだ! 早く中継を切れ!」


 すると、彼女はカッと目を見開いた。


「バカって何? あんたがそうすればいいって言ったんでしょ!

もっと足出してよ! 読んでいる内容わからなくてもヘラヘラ笑ってればいいから!

年取ればお払い箱! 替えなんていくらでもきく! 他の子は断らなかったよ!

結局君もまあまあだったよ! もう飽きちゃったな! そろそろ期限切れ!

おなかの子なんて知らないよ! どうせ他の男とも寝てたんだろ!

汚らわしい女! 頭も股も軽いんだな! 飛び降りたら空、飛べるんじゃないの!

飛べよ! 死んでみろ! 死ね! 死ね! 死ね!」


 嵐に劣らぬ激情の濁流。彼女から出た叫びはやがて絶叫に。

続いて悲鳴へと変わり、吹き抜けた風と同化した。

 そして中継が切られた瞬間、彼女の姿が消えた。

後に残ったのは呆然とする一同と、ビルの間を縫うように吹き抜ける

悲鳴のように鋭い風の音だけだった。


 列島を襲った台風は今もまだ勢力を増している。

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