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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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因果性

 人生順風満帆な男がいた。

孤児院出身で頼れる親がいないとあって苦労も多かったが

そのおかげからか負けるものかと精神はタフに。

仕事も高収入。顔も良く、影があるのが素敵だのなんだので

恋人が途切れることはない。

 つい最近も付き合っていた女を切り、新たに美人と付き合いだした。

だが、やはり悩みというものは誰にでもある。


「あ、あの!」


「はい?」


「こ、この財布、貴女が落としたように見えたのですが……」


「あ! ホントだ。ありがとうございます! あの、何かお礼を……」


「いえ、では僕はこれで……」


 男はサッと身を翻し立ち去る。

その背中を先程の女性がウットリ見ていることにも気づかずに足早に。

 だがあの女性も気づいていない。

男のその背中は嫌な汗で湿り、その奥、心臓が早鐘を打っていること。

そして、男の手のぬくもりを移したいように愛おしそうに持つその財布は

落としたのではなく、あの男が盗んだことに。


 男の悩み。それは無意識のスリ。

男は顔が良いだけではなく、知識も豊富だ。

まず、自分が窃盗症なのではないかと疑った。

 だが、万引きなどそこらの店の商品を盗んだことはない。他人の財布限定なのだ。

尤も悩ましいことに変わりはない。

精神科医に相談したがいつまで経っても解決にはつながらなかった。


「占い……か」


 そんな男が路上でふと見つけた占い師に見てもらおうと考えるのも無理もない。

引き寄せられるように席に着いた。

やはりと言うべきか、そこまで期待していない男の耳のせいか

差しさわりの無い言葉しか聞こえなかった。

 だが、その中に男の興味を引く、いや直感に刺さる言葉があった。


『双子の星が見える』


 双子……。まさか自分がそんな。しかし、可能性は否定できない。

そう考えた男は探偵に依頼し、自分の出自、兄弟の有無を調べさせた。




「……と言うわけで調査の結果がこれです」


 しばらく経ったある日、探偵事務所にて

探偵が差し出した封筒の中身を机の上に広げた男は息を呑んだ。

 写真に写っているのは自分そっくりの男。

間違いない、双子だ。自分には生き別れの兄か弟がいたのだ。


「ええ、私も驚きました。その男は今、刑務所にいます。

何でも窃盗、スリの常習犯のようで」


「……そうか。まあ仕方ない。資料を見るに別の孤児院で育ったようだ。

孤独で心が荒れるのも無理はない。よくわかるよ。しかしそうかスリか……」


 男は大きく息を吐いた。

 双子のシンクロとでも言うのだろうか。恐らく刑務所内でもその男は盗みを働いた。

あるいはその癖からか盗みたい衝動に駆られた。

その思念がこちらに伝達し、無意識下でスリを行っていた……仮説に過ぎないが

原因がそうだと思えば、こちらの気力と根性次第で何とか意識を保てるかもしれない。



「ええ、ですが……この男どうも妙なことを口走っているようです。

あの女のことは俺のせいじゃない、無意識だったと。

あの女というのは男が捕まるきっかけになった殺人事件の被害者で……」

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