信じる力
……え、嘘、これって……夢?
目を開けた少女がそう思ったのは無理もない。
そこは空。
ビルを見下ろし、走る車も指でつまめるような大きさ。
夢……それとも幽体離脱?
寝起きのようにぼやけた状態から徐々にはっきりしてきた脳が
これは夢ではなく現実なのだと告げていることを少女は感じた。
少女は辺りをキョロキョロ見回す。
探し物はすぐに見つかった。自分が入院している病院。
少女は両手を左右にピンと伸ばし、滑空する飛行機のような体勢になったが
スッと両手を下ろした。
……体に戻るのは後でもいいよね? だってこんなに自由なんだもの。
このまま体に戻れなくてこの夜空に、まさに天に昇ってしまっても別に構わないわ。
これまでずっと願ってたんだから。
病気の体はいらない、自由に空を飛びたいって……。
そう考えた少女は空を飛び回り、明かりが灯る街に近づいた。
美しかった。これまでは病室の窓から眺めるだけであったが
今では楽しそうな人の声まで聞こえる。
少女は引き寄せられるように更に近づく。
すると徐々に賑やかさが騒がしさに。そして
「何だあれは!」
「人が、女の子が空に!」
「どうなっているの!」
「超能力!?」
……え?
幽体離脱じゃなくて私、本当に飛んでいるの? そんな馬鹿なことあるわけ――
少女がそう思った瞬間、まるで魔法が解けたかのように
体の節々に痛みが戻ってきた。
そして勢いを無くした紙飛行機のように落下する中
ある時、看護師の女が口にした言葉が少女の頭の中に蘇った。
『大事なのは治るって信じること。治った自分を想像するの。
思い込みの力って実は馬鹿にできないのよ?』
だが、迫るアスファルトを前に少女は長年連れ添った
そしてこれから味わうであろう痛みしか想像することができなかった。




