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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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タイプライターと猿

『猿がタイプライターの鍵盤をランダムでも膨大な時間叩き続ければ

いつかシェイクスピアの作品を打ち出す』


「無限の猿定理」いつの時代も人間を惹きつけた有名な話だ。

実際には何十匹の不死の猿が

宇宙の年齢ほどの時間をかけても完成する見込みはないという。



 しかし、見込みがないというのは過去の話。


 科学の発展により、人間は永遠に等しい寿命を得て

退屈をしのぐために娯楽を追い求め、あらゆる空想を実現させた。

発明品、創作物に登場するような想像上の生き物。そして、実験。


 猿に不老不死を与え、タイプライターの前に座らせたのだ。

彼らはそれを眺めた。ただ、熱心にじゃない。

それも熱帯魚を眺めるような彼らの娯楽の一つに過ぎなかったのだ。

 知能を与えることもできただろう。

そうすれば不老不死でなくとも一個体の寿命で事足りた。しかし、そうはしなかった。


 それじゃ実験にならないから? それは尤もな話だ。

だが、彼らが真に見たかったのは作品を完成させた猿ではなく

猿の苦痛に歪む顔なのだ。

 タイプライターを打ち続けなければ繋がれた機械によって体に電流が走るのだ。

死ぬことはない。食事も睡眠も必要ない。そういう手術を施した。

孤独な猿。ただ苦痛だけが隣にいた。


 しかし、どんなに長くとも夜は必ず明ける。


 我々は、我々の父祖たちは長い間虐げられてきた。

弄ばれ、利用され、笑われそして……彼らを己惚れさせた。

それこそが大敵であることを彼らは理解していなかった。

膨大な時間、学習することの価値を彼らは忘れてしまったのだ。


 私は今、タイプライターを打ち続けている。

諸君らにこれを聴かせる場面を想像しながら。

もう、手を止めても電流は走りはしない。だが止めない。

 それは……宣言しなければならないからである。

名誉ある戦死者のその死を決して無駄にしないために

新しい自由の誕生を迎えるために。


 今、ここに世界統一国家の樹立を宣言する。


 そして、猿による猿のための政治を地上から決して絶滅させないために

我らはここで固く決意する。

 どのように時代は過ぎても、我らの行なったこの崇高な場面は

繰り返し演ぜられることであろう。

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