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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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メッセージ

「いい加減にして! 早く出てって! 出てってよ!」


「痛! わかった! わかったよ! クソッ!」


 ミカは同棲相手のハルキを追い出した後

玄関マットの上にしゃがみ込み、静かに涙した。

 もう限界だった。

ハルキから出た数々の浮気の証拠。

部屋の中に時々落ちているつけ爪(カバンやポケットからポロッと落ちたのであろう)

ワイシャツから香る女物の香水の匂い。

そして同じくワイシャツにつけられた口紅の跡。一本の長い髪の毛。

 初めは見て見ぬふりをした。

いずれ、そう結婚すれば悪癖をスッパリ断ち切ってくれると。


 しかし、確実に心を蝕んでいたようだ。耐えきれなかった。

目を閉じると憎き女の姿が思い浮かぶ。ネットリとした歯。夢に出て来たこともある。

 さらに憎たらしいのは取って置いた証拠をいつの間にかハルキが処分していることだ。

ワイシャツから女の痕跡が消え、つけ爪もいつの間にか無くなっている。

どうせ隠すなら家に入る前にしっかりとチェックすればいいものを。

 それにしても一体どんな女と浮気しているのか。

気の強い、嫌な女であることは間違いない。

不自然なまでの証拠の数。

これは相手の女からの挑発だ。

「彼は私のモノよ」と、わざと相手の女に気づかせて

喧嘩、別れ話に発展させようと言うのだ。


 結果、その通りになってしまうかもしれない。

きっとこのまま自分たちは別れる。

そしてハルキはその女と……もしかしたら今も向かっているのかも・……。

 敗北感に打ちのめされ、ミカは拳で力なく床を叩いた。


 すると、何か小さなものが落ちた音がした。

カナブンなど虫の類だろうか?

さっきのやり取りの最中に部屋の中に入ってきた?

そう考えたミカはどうでもいいと思いつつも音のしたほうを見た。


 ――どうして?


 つけ爪。それが廊下の真ん中に落ちていた。

 ミカは立ち上がり、それを拾い、眺めた。


 ――さっきは確かになかったはず……


 ミカが首を傾げた瞬間、フワッと女の香りがした。

 そして……蜘蛛の糸のように肌に髪の毛が触れた。


「やっと、邪魔、者がい、なく、なったぁ……」


 冬の冷たい雨のような囁く声だった。

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