パズル
「あ! コウタ! あんたまたそれ――」
「ちゃんと洗ったよ!」
母親の言葉を遮るコウタ。
『それ』を箱にしまい、勢いそのまま自分の部屋へ向かって走っていった。
まったくもう。外で拾ってきたものを家の中に入れないで欲しいのに……。
母親はリビングのテーブルに頬杖ついて、廊下の奥の箱を見つめる。
コウタは宝物と言って家の近くの林を主に
外で拾ってきたものを洋菓子の空き箱にしまう。
洗ったと言ってもどうせ適当だ。虫がついているかもしれない。
コウタも心のどこかでそう考えているのか箱は玄関に置き
自分の部屋に持って行こうとしないのが憎たらしいところだ。
「……よし」
母親はテーブルの上で完成させたジグソーパズルを見下ろし、そう呟く。
絵柄は好きな男性アイドルグループ。
リビングの照明の下、パズルの光沢。輝く笑顔が眩しい。
もういい歳だ。実物ならまだしもパズルの写真。
そう考え、キャハッと声を上げたい衝動をニヤつくだけに押しとどめ
彼らも幼い頃、コウタのような瞬間があったんだろうか、と空想する。
……いや、ないな。
母親はジグソーパズルを見つめ、ムフッーと
息子への呆れと彼らへの想いが混在した大きなため息をつくと
彼らに向かって頷き、そしてコウタの『宝箱』に向かって歩き出した。
捨てるつもりはないが、あまり変なものを拾って来ては駄目だと
いい加減、ビシッと言うべきだ。そう考えた。だが……。
「これは……?」
手に取り、箱を開けた母親が抱いた感情は困惑。
丸い石や色付きガラス。貝殻、光沢のある虫の死骸などを想像していただけに
その彩の無さに面食らったのだ。
……ああ、そうだ。あの子、確か化石を見つけたとか言っていたな。
母親はその一つを手に取り眺めた。そしてテーブルの上にその『化石』を並べる。
「ここがこう……それでこれが……」
そう呟きながら組み合わせる。
パズルが趣味なだけあって手際がいい。
が、ふとその手が止まった。
パーツが足りない。
それが問題ではなかった。十分だった。
空虚な眼窩を見下ろし、母親は小さく悲鳴を上げた。




