表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

415/705

迎え

 梅雨時の涼しい夜だった。

 何かの気配を感じ、私は目を覚ました。

すると、ベッドで寝ている私の顔を覗き込むように

ぼんやりと黒い靄のようなものがあるではないか。

 不審者、泥棒、変質者。そう思い、悲鳴を上げようと息を吸い込んだ時

その黒い靄の向こうから声が……いや黒い靄そのものが言った。


「迎えに来た……」


 肺に溜め込んだ空気が白い息となって口から出て行った。

凍えるような寒気がした。目の前にいるのは人間ではない。死神だ。


「……こ、今度、子供が結婚するんです。

で、できれば孫の顔も見たい……ど、どうか、あ、後回しに……」


 私は頭の中で念仏を唱えながら、また亡き母に祈りながら

震える声でそう言った。懇願するように。

 だがきっと願いは叶わない。

必死になればなるほど手から零れ落ちていくものだ。


「そうか……」


 黒い靄はそう言うと、集まっていた虫が散るように消えていった。

 手足にじんわりと血の気が戻ってきた。

私は天井を見つめたまま、短い呼吸を繰り返した。

これは夢ではない。寝ぼけていたわけでも。

安堵と焦燥が同時にこみ上げてきた。

 日々を大事にしなければ。

私はそう決意し、そしてまた、気絶するように眠りについた。


 以来、死神は現れない。


 私はついに孫にも先立たれ

そして今もまだ、病院のベッドの上で死ねないままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ